ちょっとした森を思わせる敷地の中に、全て貸切の湯屋が七つ。
オフシーズンなら待ち時間もなく縦横無尽に宿の中で湯巡りができてしまう。
「花吹雪」はここ数年、リピートしている伊豆高原の温泉宿です。
伊豆高原駅から急な坂を下って徒歩およそ10数分。
山荘風の門をくぐってレセプション棟でチェックイン。
ハーブティー等と一緒に、茶会で主菓子を食べる時に使う「黒文字」に因んだフレグランスが供されます。
大きな建物はなく、数室から成る離れ風の宿泊棟が点在。
斜面に沿って宿の敷地が広がりますが、木々が豊富に繁っているので外界からは隔絶された雰囲気。
ときおりリスが走り回ったり。
別世界です。
引き込まれている源泉は八幡野温泉。
62℃ほど。
pH8.5程度のカルシウム・ナトリウム-硫酸塩・塩化物温泉。
無色透明、クセのない清らかな湯です。
全ての浴槽が加水なしの源泉掛け流しです。
湯船の大きさや投入量の加減により、熱め、温めとバリーエーションが楽しめます。
どの浴室も夜通し入れますから深夜、早朝いつでも湯浴み。
ただ7つも浴室があるので一泊で全制覇を狙うとすると、相応の湯疲れを覚悟しなくてはいけません。
おそらく一番人気なので先客に貸し切られまいとチェックインして真っ先に向かう湯屋は「黒文字」。
赤兎と白兎の置物があって、特に子供連れに喜ばれそうですが、湯の扱いも高レベル
内風呂と露天、二つの湯船があり、それぞれにたっぷり源泉が注がれちょうど良い温度に設定されています。
内風呂の湯口には黒文字の木が添えられ、気品が感じられます。
一人で独占するのは申し訳ないような貸切風呂です。
次いで気に入っているのは「鄙の湯」と銘々された半露天。
シンプルな方形の湯船に滔々と源泉が投入されていて、こちらも適温。
ゆったり腰掛けられる椅子もあり、出たり入ったりと寛ぐことができます。
「檜湯殿」の浴室は鬼が湯口にたつユニークな造りですが、やや湯の投入量が抑えられているので温めに感じられます。
バテレンルームという洋室棟に続く一角に「志野乃湯」と「織部湯」が隣り合っています。
こじまんまりとした浴室でこちらは熱め。
以前は特徴的な焼き物の湯口から源泉が注がれていましたが、ここしばらくそれは止められていて、浴槽内の湯口からじんわり湯が出ています。
湯巡りの〆に熱めの湯でさっと、という使い方をしています。
さらに、メインの宿泊エリアから少し離れたところに「森のうさぎ棟」という別の建物があり、こちらには「サンパヤテレケ」「ヒュレヒュレイセポ」と南方風の名を持つ浴室。
シンプルなデザインで窓を開けると開放感もあり、好感が持てます。
「森のうさぎ棟」の入り口近くには「瞑想室」があり、たしか武満徹の音楽をCDで聴くことができたと記憶します。
湯疲れで瞑想どころではないのでこのルームに入ったことはないのですが。
部屋はそれぞれ雰囲気が異なりますが、適度に民芸調を取り入れたモダンなものが多いようです。
森に囲まれていて、部屋数が少ないこともあり、まるで一軒家で過ごしている感覚に。存分に寛ぐことができます。
食事は専用のレストラン棟で供されます。
伊豆ですから当然に金目鯛のお造りなどが出てきますが、どの料理も一手間かけられていて美味。
量も常識的。
ユニークなのは朝食で、洋食、和食、お粥膳と三種類から選ぶことができます。
いずれも食べましたがそれぞれ、それぞれに美味しい。
洋食はたっぷりとしたオムレツがメイン。
和食は魚の種類が選べて迷いますが、薄っぺらい鯵の干物のようなものではなく、いずれもしっかり身のある焼き魚が楽しめます。
粥は鍋で運ばれ目移りするようなおかず皿がつきます。
チェックアウトは11時。
ゆったり朝が過ごせます。
ちょっと困るのは帰り道。
来る時はなんでもなかった下り坂が今度は上り坂となって迫るので朝酒に加えて湯疲れした身体にはこたえます。
タクシーを呼べば良いのでしょうが、そこまでの距離でもないので、いつも伊豆高原駅までヘトヘトになりつつ歩いて帰途についています。
オフシーズンの平日で一人泊だと2万円台の後半。
安くはありませんが価格に十分見合う温泉、食事、サービスが約束された宿と言えると思います。