古い木造旅館の風情を残しながら展望足湯場を設けるなど新しい客層も意識している湯河原の老舗宿。
温泉の扱いが比較的丁寧で気に入っています。
「温泉場中央」のバス停から歩いてすぐとアクセスは良好です。
大正から昭和初期に建てられた登録有形文化財の宿。
中でも本館は四階建てで、楼閣といってもいい建築。
階段や廊下の造りに往時の職人たちによる丁寧な仕事を見ることができます。
床は黒光していてしっかり日々のメンテナンスがなされている様子。
部屋によって細かい意匠が違う等、かつての威勢がしのばれます。
湯河原に生き残っている老舗系では伊藤屋、藤田屋も雰囲気が良く、特に後者の丸い浴槽は格調高く好きなのですが、温泉の質ではここ上野屋が最上級ではないかと思います。
自家源泉「湯河原第22号」。
81.3度、pH8.4のナトリウム・カルシウム-塩化物・硫酸塩泉。
湯河原中心部に湧く温泉は大半が高温で扱いが難しい。
触れることもできないくらい熱いのです。
この宿の近くにある共同浴場的存在である「ままねの湯」も湯量を絞って源泉掛け流しを確保しています。
しかし湯量を少なくしすぎると、人がたくさん入るほどに温質は低下。
「ままねの湯」は一度入りましたが、投入量を絞りに絞ってもまだ熱い湯船に、結構出たり入ったりと長湯している人が多く、お湯の鮮度に疑問をもった経験があります。
上野屋も加水はせずに源泉100%掛け流しとうたっていて、湯量は絞っています。
しかし、浴槽の大きさに見合ってちょうど良いバランスで投入されており、そんなに混雑もしないので、湯は無色透明の湯河原らしい名湯の風情を保持しています。
大浴場が二つあり、男女入れ替え制。
「六瓢(むひょう)の湯」と名付けられています。
御影石製の浴室では浴槽が二箇所あり、温度差がつけられています。
瓢箪型の湯口にはびっしり温泉成分が白く結晶。
濁り湯ではなく特に匂いが強いわけではないのですが、湯河原の温泉は出た後、身体に結構こたえます。成分がなかなかに濃いからなのでしょう。
貸切風呂が二箇所あり、空いていればいつでも入ることができます。
この貸切風呂が秀逸なのです。
外気が取り込まれやすい半露天、爽快です。
バルコニー風の展望台にいくつか足湯がおかれ、こちらも源泉掛け流し。
涼みながら湯河原の山々を眺めることができます。
平日なら概ね1万円台後半で一人泊可能。
食事は古めかしい旅館料理のそれですが安定感はあり、値段相応といったところでしょうか。
あの熱海が近年復権し結構混雑しているとか。
都内から近場で静かに過ごしたいのであれば熱海の手前、湯河原辺りがちょうど良いかも。
新幹線には乗らず、だらだらと飲みながらの快速アクティ・グリーン車旅も悪くありません。