コロナ禍での「桃山展」|東京国立博物館

 

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特別展「桃山」天下人の100年

■2020年10月6日〜11月29日
東京国立博物館

 

目眩く傑作の数々に圧倒される展覧会。

ここ数年の東博特別展の中でも群を抜いて豪華な内容です。

しかも前期・後期で結構目玉作品が入れ替わるので、じっくり観賞しようとするならば、4回くらい通わないと全貌を味わうことができないと思います。

 

今年度の東博はすでに2つの特別展をコロナの影響で取りやめています。

中でも久々の東京出張をお願いした百済観音像をお披露目叶わず奈良へ戻した「法隆寺金堂壁画と百済観音」展は経済的損失も含めて大打撃だったと思われます。

 

「桃山」展は予定されていた特別展ですから、こういう言い方はおかしいのですが、そんな上半期の鬱憤をはらすがごとき豪華絢爛さ。

 

東博自身が国宝重文の数々を惜しげもなく展開していることはもちろんですが、国内有数の美術館・博物館が、それぞれ自慢の逸品を展示。例えば次の通りです。

・志野茶碗 銘卯花墻 (三井記念美術館)

・初音蒔絵大角赤手箱 (徳川美術館)

青磁鳳凰耳花入 銘万声 (和泉市久保惣記念美術館)

洛中洛外図屏風 歴博甲本

青磁筒花入 大内筒 (根津美術館)

・日吉山王祇園祭礼図屏風 (サントリー美術館)

・泰西王侯騎馬図屏風 (神戸市立博物館)

 

その他、逸翁美術館、北村美術館、香雪美術館、野村美術館、白鶴美術館、藤田美術館細見美術館、樂美術館といった関西の名物美術館が茶道具等を中心に優品を提供。

有名寺院からは障壁画等の大物を借り受けと、全編がハイライトともいうべき内容。

普段は恭しく単独で陳列される光悦筆の国宝「舟橋蒔絵硯箱」が他作と並列で、しかもさほど目立たないコーナーにひっそりと置かれています。

贅沢な"one of them"的展示。

桃山オールスターによるガラ・コンサートが繰り広げられています。

 

時代区分からいえば、豊臣秀吉全盛期を中心とした30年が安土桃山に該当しますが、この展覧会では「桃山的」な美術の潮流を大きく捉え、秀吉の前後およそ100年を対象としています。

桃山の前における美術史上の核は東山文化。

展覧会では順序が時代的に前後しますが、第二章として周防大内氏由来の品々が紹介されています。

根津美術館蔵の「大内筒」に代表される足利義政好みの残滓を置くことで、前時代からどのように桃山になっていったか、鑑賞者にわかりやすく示してくれています。

他方、拡大された桃山美術の最後は二条城、狩野山楽の襖絵で締めくくられています。

永徳の豪壮さよりも格式の美が好まれていく時代の流れを辿って終幕といった構成。

学問的説得力とエンタテインメント性を両立した企画展です。

 

前後の美術史に目を配りながらも、この展覧会の中心はやはり秀吉の時代。

狩野永徳の「檜」と長谷川等伯の「楓」が豪勢に並んで競演しています。

圧巻でした。

 

多様な方向に文化が進んだのもこの時代で、ザビエル像に代表される南蛮系の有名作品や、茶の湯関連の至宝が次々と披露されます。

観賞用のお腹がいっぱいになってきてしまい、途中で何度も疲れ果て、休憩せざるをえませんでした。

終盤、天下の名刀群と奇抜な甲冑のコーナーあたりではもうふらふらという有様。

時間指定の事前予約制で90分を目処に観賞を切り上げるように要請されています。

とてもこの時間では足りません。

洛中洛外図屏風等の大規模群衆絵図が多数展示されています。

単眼のアートスコープだけでは目が回ってしまいそうなのでオペラグラスも必要でしょうか。

 

厳格な入場制限があるおかげで、これだけの名品を混雑害に遭遇する事なくゆったり観賞できます。

これは稀有な体験です。不謹慎なことはわかっていますが、コロナのおかげという他、ありません。

 

 

一方、疑問を感じる点もありました。

 

名品をできるだけ多く紹介したいという東博の意図は結構なのですが、会期が短いと言わざるを得ません。

前期は10月6日から11月1日、後期は11月3日から29日です。

もちろん全期間展示されている作品もありますが、例えばこの展覧会の顔ともいうべき唐獅子図は後期のみ。

上杉本の洛中洛外図屏風は前期で終わり。

その他、かなりの作品が前期後期で入れ替わります。

実質それぞれ1ヶ月もありません。

内容からみて、3ヶ月は十分もつ企画です。

どうせいろんな展覧会が会期を変更しているのですから、関連印刷物の訂正等を含め、鑑賞者は受け入れるでしょう。

作品保護上の制限や年度単位の計画遵守がお役所の基本でしょうが、今年だけは融通をきかせて欲しかったと思います。

 

それと展示品を囲む「立入不可エリア」の問題。

これは常設展も同じですが、コロナ対策のため、あまりにも幅広く取られるようになりました。

展示品まで遠すぎます。

今回でいえば、特に問題は茶碗類。

見込みの三分の一くらいしか見えません。

展示ケースの高さをもっと低くする等の工夫が必要です。

井戸茶碗や油滴天目など、せっかくの名品たちが半分顔を隠しているようなものです。

仮に飛沫がケースに付着したとして、そのケースを舐める奇特な人はいないでしょう。

現在の立入不可エリアのライン設定は明らかに過剰だと思います。

東博は美術展規格における一つの基準にもなってしまうので、見直しをお願いしたいと思います。

 

と、不満を口にしたくはなりますが、とにかくこれは大変な展覧会なので、できればさらに2回、何とか足を運ぶことができないかと、悩んでいます。

 

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