「石橋財団コレクション選」展 (アーティゾン美術館)

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石橋財団コレクション選

 ■2020年6月23日〜10月25日
 ■アーティゾン美術館

 

アーティゾン美術館では4階から6階までの3つある展示フロアの内、4階部分を常設展示室として運営するようです。
今回のコレクション展ではおなじみの名画に加えて女流印象派とクレーの作品が特集されていました。クレーは積極的に収集していく方針らしく、新収蔵を含め充実した作品群が展示されています。


ブリジストン美術館と比べ、全体に明るく、天井が高くなった分、開放感があります。他方、日本・東洋美術のコーナーは真っ暗といってもいいほど照明が抑えられ、漆黒の無限空間に陶磁器や屏風絵が浮かび上がります。これは新体験でした。


今回は特にカイユボットの「ビアノを弾く若い男」がお気に入りに。これはアルトゥール・ピサロが弾いたカバレフスキーピアノ曲集ジャケットに使われていた一枚。名演です。

 

 

さて以下はちょっと雑談的に。酒を飲んでいるので、余計なことを書いてしまうかもしれません。

 

美術館に行くことは好きです。しかし、混雑している美術館ほど嫌いなものはありません。お金をもらってでも行きたくない。
若冲フェルメール。絵師にも画家にも責任は全くありませんが、その名前を含んだ展覧会の情報を聞いただけで、どんよりした気分になってしまいます。

混雑害に遭遇するということは、自分自身がその害の一部をなしているということでもあります。展覧会で自家中毒を起こすようなもの。本当に嫌な体験です。

社会人になってから、一時、美術館から足が遠のきました。土日の混雑に嫌気がさしてしまって。わざわざ平日に休みをとって出かけても人気の企画展では大行列。うんざりしつつ諦めて観賞せず帰宅したこともありました。

ところで、2020年10月現在、コロナによって大規模美術館の多くが事前予約制を採用せざるをえない状況になっています。賛否はあると思いますが、これを機会に是非ともこの制度を部分的にでも良いので主要美術館のスタンダードにして欲しいと思いはじめています。
このところ快適に観賞できる機会がとても増えています。無論、外出を控えてる方が多いということもあると思われますが、明らかに事前予約制のおかげです。この手法を多くの美術館・博物館が会得できたのですから、運営サイドが活かさない手はないと思うのです。

 

アーティゾン美術館は今年開館したわけですが、周知の通り、コロナに関係なく、当初から事前予約制を取り入れて運営を開始しました。前例がないわけではありませんでしたが、思い切った決断。

石橋財団にはブリジストン美術館時代からの豊富な運営ノウハウがあると思います。その彼らが事前予約制に踏み切ったのにはそれなりの理念があったからではないかと推測しています。

元々社会教育学の一ジャンルである博物館学では、よく知られたジレンマがあります。
「保存か公開か」。
もちろん外気や光に当てられることが作品にとって一番の問題です。移動のリスクも大きい。でもこれらとは別に、人がたくさん来ればそれだけ作品損傷のリスクが当然に高まることも考慮しなければなりません。
作品のことを第一とするなら公開はしない、または厳しく限定した方が良いに決まっています。でも秘仏化してしまったら博物館・美術館としての使命がまっとうできません。
押し合いへし合いの大混雑は観賞のクオリティを下げるだけではなく、作品保護の点からも本来、好ましいことではないと思われます。

アーティゾン美術館では、コレクション展に加えて、「ジャム・セッション」などモダンアートを積極的に紹介しようとしています。絵画だけではなくインスタレーションや剥き出しのオブジェが多く陳列されることになります。
わらわらと多数の人が押し寄せたら、文字通り作品が壊されかねない。入場制限をしたとして、場所は京橋・八重洲日本橋エリアの一角。六本木ヒルズ森美術館や木場の東京都現代美術館のように懐深いエリアが確保されているわけではありませんから行列を市中に伸ばすことができない事情もあるかもしれません。

快適な観賞空間の提供と作品保護、どちらも両立できるのが事前予約制。アーティゾン美術館の運営方針は博物館学の観点からも素晴らしいものだと思っています。
もちろんネット予約が難しい方など、制度がとりこぼしてしまう鑑賞者をしっかり手当てする対策が必要です。幸か不幸か(不幸なのに決まってはいますが)、コロナがその実地対策訓練を現在、美術館・博物館に課しています。

ということで、アーティゾン美術館が今のところ、東京で最も好きな美術館です。

 

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