現在京都国立博物館で開催されている「皇室の名宝」展(2020年10月10日〜11月23日)を観て驚くのは、いずれの絵画作品もその保存状態が極めて良いということ。
宮内庁三の丸尚蔵館による不断のメンテナンス、修復作業による賜物でしょう。
中でもその超絶技巧ぶりも含めて鮮やかに美観が保たれている逸品があります。
狩野常信作「糸桜図簾屏風」。
初見でした。
六曲一双の比較的中規模の屏風で、居並ぶ永徳流の大屏風に比べると派手さはありません。
しかし、一見してそのモダンに近づいたといっても良いデザイン性に目を奪われました。
ここにはもはや桃山の豪華さはなく、奥ゆかしい形式性の高い美が尊ばれています。
さて、それにも増して驚くのは、この屏風の真ん中が本物の「簾」として作られていることです。
屏風紙がくり抜かれ、見事な細工で簾がはめ込まれています。
そこに常信の優雅な桜の図が地の屏風絵と連続して描きこまれているので、まるで簾越しに桜を観ているような錯覚を引き起こします。
一種のトロンプルイユ。
「御簾屏風」というのだそうです。
簾の一節一節にのった小さな花々が欠損することなく保たれています。
とてもデリケートな、工芸といっても良い作品。
本当に風が屏風を吹き抜けるわけですから、いたみやすいこと、この上ないはずです。しかし、全く絵が剥落していない。
400年近く前に描かれたものとはとても思えない美しさ。
三の丸尚蔵館の所蔵品には明治以降、皇室に献上された品も多いのですが、この屏風は作成当初から宮廷に伝わるものだとか。
その趣味性の高さと、継承への並々ならぬ執念が感じられる傑作だと思います。