11月23日まで京博で開催されている「皇室の名宝」展。
後期の展示が始まっています。
ほとんど前期から作品が入れ替えられたと言っても良い内容です。
一応通期展示とされている「蒙古襲来絵詞」も、前期は最も有名なモンゴル軍との戦闘場面が描かれた箇所が広げられていましたが、後期は竹崎季長の行列シーンに替えられています。
こちらはこちらで当時の武将装束などが丁寧に描写されていて目にうれしい部分。
相変わらず保存状態も超一級です。
後期の冒頭を飾るのは藤原定家をテーマにしたかのような書跡の数々です。
まず西行が定家の父藤原俊成に歌の判定を依頼した「西行書状」。
次いで定家自身の筆による「更級日記」の写と「記文草案」「和歌懐紙(反故懐紙)」。
最後に定家の息子為家による「書状(葛城山消息)」。
これは前期展示の平重盛による書に引き続き、近衛家煕によって施された美麗な表具仕立てです。
定家を挟んで御子左家三代に因んだ書が揃った格好です。
村井康彦の『藤原定家「明月記」の世界』(岩波新書・先月の新刊)を読んだばかりだったのでこれらの展示には特に生々しさを感じました。
定家は晩年、嵯峨中院山荘で過ごすことが多くなりますが、そこでは小倉百人一首が編まれただけでなく、古典書写への取り組みがなされたそうです(同書P.243)。
今回展示されている「更級日記」もおそらくその頃に写されたもの。
一文字一文字の存在感が歪なまでに強められた独特のスタイルで記されています。
文庫本よりちょっと大きいくらいの小さな綴じ本ですが、校訂的な作業も加えられたという定家晩年の仕事が窺い知れる貴重な史料であり書跡です。
華麗に活躍する判官の姿を紹介した前期に対し、後期は彼が殺されて冥府に落ちた後、閻魔大王によって復活させられる劇的な場面が描かれた箇所が開示されています。
ここがおそらく長大な絵巻中、最もドラマティックなシーン。
又兵衛らしさが存分に確認できると思います。
極彩色で迫力満点に描かれた閻魔大王とその眷属たちの様子もさることながら、復活した小栗判官のどす黒く痩せほそった異様な姿。
又兵衛の想像性と描写力の凄み。
華麗な姿から一転し、墓から這い出た死人同様の小栗判官。
グロテスクであり、リアルでもある不思議な魅力をたたえています。
皇室ではなく国の所有であれば間違いなく国宝認定級の俵屋宗達「扇面散図屏風」が後期展示における近世絵画特集コーナーの目玉です。
保元・平治の乱等の一場面が宗達により扇のなかにトリミングされています。
その配置の妙とデザインセンス。
機知に富んだ美意識が屏風全体から放たれています。
前期に比べて若干地味になった感じを受けます。
それでも小野道風の「屏風土台」、伝紀貫之による万葉集など、前期にはなかった逸品が揃えられています。
三の丸尚蔵館からの出品が大半ですが、後期に至って京博自身も秘蔵の国宝「山水図屏風」を繰り出し、面目を保っています。