開館60周年 記念名品展II 「泉屋博古」住友コレクションの原点
■10月30日〜12月6日
■泉屋博古館
鹿ヶ谷の泉屋博古館が開館60周年を記念して開催している企画展の2回目。
今回は住友友純(春翠)の長男、住友寛一(1896-1956)による中国絵画コレクションが特集されています。
寛一という人は相当に芸術家肌だったようです。
目利きの才能にも恵まれ、当時あまり注目されていなかった明末清初の画家に早くから着目、好んで集めていました。
一方で、ビジネスの方面には関心を示さなかったため、長男であるにも関わらず当主「住友吉左衛門」を名乗れなかった人でもあります。
明が滅んでも清には靡かず意地を通した遺民画家たちに惹かれたという寛一の中には、そんな成り行きが反映して、どこか屈折した思いがあったのかもしれません。
とはいえ、大磯に別荘を与えられて自在に過ごしたそうですから、不遇悲運の廃嫡子というイメージにはつながらない人物でもあります。
皮肉にも好事家の血統はむしろ父友純から寛一にしっかり引き継がれたといえなくもありません。
八大山人の「安晩帖」(重文)。
どこかユーモラスな、それでいて達観したかのような魚の絵が展示されています。
余白がとても大きく取られていて、バランスがかなりおかしい絵画です。
この八大山人は狂人だったともいわれています。
墨一色の小さな図像なのに、底知れない明るい不気味さを表現していて、確かに一般的な中国書画とは全く違った作品です。
寛一の好みが色濃く反映されていると感じます。
他に石濤をはじめとする傑作の数々。
中でも今回、特に気になった画家が二人いました。
漸江は明代インテリ層出身の画家ですが王朝滅亡後は清への抵抗運動に参加したというなかなかの行動派。
でも、その作風はおそろしく静かに透徹したもので、展示されている「江山無尽図巻」は古めかしい中国山水画とは全く趣を違えています。
モノクロームの線や点が微細に連なって奇岩や河畔の様子が描かれているのですが17世紀の作品とはとても思えない現代性や幻想味が感じられます。
伝統的な書画から逸脱した写実芸がみられると思います。
そして邵弥の「山水図」。
この人も明末清初の画家です。
添えられていた解説によれば「異常に潔癖症」だったのだとか。
漸江と同様、白と黒の繊細微細な描画。言われてみればどこか神経質な雰囲気が漂います。
少しも観ていて気が休まらない山水画です。
奇才といって良いのではないでしょうか。
日曜日の午後に観賞しました。
全く混雑しておらず、快適な時を過ごすことができました。
日建設計による重心の低い往時のモダニズム建築と、紅葉が一部早くも見頃をむかえた中庭のコントラストが見事です。
スタッフの方々も感じが良い。
相変わらずの穴場です。
11月初旬現在、泉屋博古館は事前予約不要です。
サーモグラフィによる体温チェックはあります。
連絡先記入が求められますが無意味なやりとりはありません。