森口邦彦展 

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人間国宝 森口邦彦 友禅/デザイン-交差する自由へのまなざし

 ■2020年10月13日〜12月6日
 ■京都国立近代美術館

 

幾何学的文様は工芸と相性が良いデザイン。
古くて新しい図柄であり、例えば、先日パナソニック留美術館が開催した「和巧絶佳」展で、ひときわ充実ぶりを示していた見附正康の陶器類ではこの文様が現代の美意識に鋭く訴求することを如実に示していました。

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染織も広い意味で工芸。
でも、硬質な物体を前提とした陶磁器や木工等とはマテリアルの基本が違うばかりか、「人がまとう」という用途の違いにおいて異質。
加えて、日本工芸における染織は様々な地方の歴史・伝統と切っても切り離せない関係にあります。
幾何学模様はニュートラルで普遍的な図柄であるゆえに、友禅という伝統を絵にかいた染織の世界で美的に活かされることが可能なのか。
二重にも三重にも異質の壁を乗り越えなければならない。
それを実現した人が森口邦彦です。

京近美の4階コレクション展で、ちょうど森口邦彦の父、華弘の作品が一点、展示されています。
友禅訪問着「秋草文」。
細かい植物の図柄が格調たかく表された伝統的な図柄の着物。
超絶技巧の芸が見られます。

森口邦彦は父華弘の世界とは全く違った幾何学的文様の世界で独自の芸術を完成。
しかし、そこに到達するまでには紆余曲折があったようです。
はじめはグラフィックデザイナーを目指したのだそうです。
しかし渡欧中にバルテュスから啓示を受ける。
「君には友禅があるではないか」と。
バルテュスは元々日本美術に造詣が深く、森口が渡欧した頃はすでに和服を常用する日本人女性を妻としていました。
幾重にも重なる偶然というか因縁というか。

一口に幾何学文様といっても、そのバリエーションは無限といっても良いものです。
森口は特に「線」とその配置に拘った人。
広島県立美術館が多数、森口の平面作品、いわば染織デザインのエキスを所蔵。
この展覧会で出張展示されています。
そこに現れているのは幾何学ピュリスムというか、線が生み出す純粋な造形の追求。
まず徹底的に幾何学図案を洗練させた後、それを人の形に沿った衣装である友禅に仕上げていく。
作品はいずれも衣桁にかけられて展示されていますが、文様の大きさ、色調、配置からそれが実際に着られた時におそらく違和感なく人体で映えることが想像できます。

森口邦彦の名を一気に染織界以外へも広めた三越のショッピングバックデザイン。
今回は1階のフリースペースで、おそらく三越伊勢丹ホールディングスの支援に拠ってだと思われますが、特設コーナーが設けられています。
実際この「実り」と題された図柄で作成された友禅も本展で観ることができます。
一目で三越図柄だとわかるのですが、服装としてもしっかり成立しているところが凄い。
このショッピングバックは今や有料化されてしまったので、捨てずにちょっと保管しておけばよかったなどと貧乏な気分にもなってしまいました。

 

客層の8割は女性。
熱心にメモをとっている人もいて、根強い人気がうかがえます。
平日の昼頃、混雑してはいませんでした。
図録があまりにもかっこいいので手がのびましたが5千円近くとちょっと高い。
購入はやめました。
普通の書籍なら1万円くらいしそうな豪華版なので実はお得な買い物とわかってはいるのですが....

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