11月10日から「京都の美術 250年の夢」展の実質的な後期展示が始まっています。
前期と大きく入れ替わるのは第1部「 江戸から明治へ:近代への飛躍」と第2部「明治から昭和へ:京都画壇の隆盛」。
特に日本画は総入れ替えに近い規模です。
前期のシックな呉春「白梅図屏風」から替わって入り口早々に置かれているのは曾我蕭白の奇怪な大傑作「群仙図屏風」。
文化庁から1週間だけこの展覧会に貸し出されています。
何度観ても驚くその強烈な色使いと仙人たちのキャラクターデザイン。
研ぎ澄まされた技巧的な筆致が一層狂気の美を引き立てています。
維持保存の術が徹底されているのか、昨日描かれたように生々しい。
若冲、蕭白と並ぶ奇才、長谷川芦雪の龍と虎の襖絵(無量寺)も和歌山からお出まし。
展示室のほぼ一面を独占。
大迫力です。
こちらは後期の最終日12月6日まできちんと展示されています。
後期第1部で最も惹かれたのは富岡鉄斎の「妙義山図・瀞八丁図」。
特に妙義山を描いた屏風は幻想と現実が織り交ぜられた奇観に圧倒されます。
実際の風景とは全く違うはずですが、それでも妙義山ということはわかる。
鉄斎の頭の中で虚実が渾然一体となり創造された新しい神仙風景です。
第2部日本画コーナーは前期と同じ土田麦僊の「大原女」からはじまります。
しかし後期ではその終盤に、麦僊が目の敵にした甲斐庄楠音の「横櫛」(広島県立美術館)が置かれています。なんとも皮肉な取り合わせ。
「横櫛」は同じタイトル・題材の別作品(京都国立近代美術館)が岩井志麻子のホラー小説集『ぼっけえ、きょうてえ』の表紙に採用されてリバイバル。
でもこちらに展示されている「横櫛」こそ長く甲斐庄楠音若き日の代表作として知られてきた作品。
展示ケースに入れらていないので、間近にこの傑作を鑑賞することができます。
装飾的で平面的な背景や衣装に対し、ホワーっと浮かび上がる女性の顔。
もっとこの様式を突き進めば和製クリムトの域に達したかもしれません。
第3部はほとんど通期展示ですが、小野竹喬晩年の様式化が進んだ「海」や三上誠の大作「触手の大気」等が新たに加わっています。
八木一夫「ザムザ氏の散歩」、辻晉堂「馬と人」等の尖った工芸に対し、番浦省吾「双蛸図漆貴重品筥」にみられる精巧な伝統技術の美。
進取のセンスと技の洗練が兼備されています。
京都美術に通底する特質が現代美術の中にも息づいていると感じるラインナップ。
森村泰昌は京都市立芸大出身ではありますが、イメージとしては大阪の人。
にもかかわらず、彼がリタ・ヘイワースに扮したセルフポートレートが第3部終盤に2枚、展示されています。
というのも、写されたのはここ、かつての京都市美術館内、湾曲したラインが美しい階段。
実際、彼と同じポーズをとろうと思えばとれるかもしれません。
前期同様、内容の充実ぶりから考えると入場者数は少なく快適でした(平日昼過ぎ)。
なお後期最終週11月23日から若冲の名品「糸瓜群虫図」が細見美術館から出張し華を添えることになっています。