京都dddギャラリー第226回企画展 食のグラフィクデザイン
■2020年10月17日〜12月19日
野菜というものはそれ自体で美しいデザインをもっています。
展覧会の冒頭でまず紹介されるのは大橋正や浅葉克巳等、大家といえるグラフィックデザイナーたちによって写し取られた野菜そのものに主張させる商業ポスター。
大橋正の、ほぼ白と緑二色のグラデーションだけで描かれたネギの図像は植物事典に載せられてもおかしくないようなリアリティをもっています。
でもそれは本物のネギとは微妙に違い、大橋によって巧みにデザイン化された食物であり、美味しそうな気配を漂わせることが忘れられているわけではありません。
浅葉克巳によるキューピーマヨネーズのコマーシャルポスター。
素材としての力を充満させているようなトマトやピーマンが暗がりの中からその存在を主張。
いかにも自然力を発揮しそうな野菜たちの迫力ある表情が演出されています。
「人工的ではないもの」としての食の力強さをアピールするために主役に引き立てられている野菜たち。
しかし、これはあくまでもそれらを食べる時に使われる調味料を訴求するためのデザイン。
実は「人工的なもの」が本当の主役であることが巧妙に隠蔽されているといえなくもありません。
さらに、一枚の野菜の写真をとるためにどれだけ多くの野菜が無駄に廃棄されたかを知っている現在の消費者から見ると、90年代あたりまでのこれらの作品を素直に見ることが既にできなくなっていることにも気づいてしまう。
田中一光の作品もまとめて展示されています。
彼は自らも料理を楽しんだ人で、食に関するデザインを多く手がけたのだそうです。
この人の作品は食材そのものよりもそれを食して楽しむための「生活」が訴求されていいます。
無印良品の広告などはその典型。
しかし雑誌「料理王国」の表紙デザインなどはいかにも食べることが楽しくて仕方がないような素直に映えるグルメ写真が採用されていて、無印的な「シンプル」「自然」といったセンスのみで食を語っていた人ではないことがわかります。
美味しい気分になってきたところで展示コーナーの様子がちょっと変わります。
「モチーフとしての食」と題されて紹介されているポスター群。
パンが戦車に模された青葉益輝の「戦争に使うパンはない」やピエール・メンデルの「シェア」では食べ物としてのパンが反戦や共生といったあまり美味しくないテーマに使われています。
飽食を揶揄する作品など、美味しさの意味が反転させられたかのようなデザイン
「食」のメタファーがもつ多様性が紹介されています。
日本人デザイナーだけではなく海外アーティストの作品も数点展示。
オルガー・マチス(Holger Matties)はDGのジャケットデザイン等でお馴染み。
今回は「うずら」という演劇ポスターが展示されています。
皮を剥がされたウズラをペンで串刺しにするという刺激的な図像。
でもマチスらしいスタイリッシュで洗練されたデザインが不思議と不快な生々しさを昇華させています。
大日本印刷が所有するこれらのポスターはいずれも当然のことながらプリント、発色がとても美しく、大判の作品でもキメが細かい。
見応え十分。
1954年の大橋正「明治キャラメル」から2016年、佐藤晃一と永井一正による日本酒を訴求する作品まで100点近いポスター、商業デザインがところ狭しと展示されています。
dddギャラリーは無料。事前予約は必要ありません。
体温チェックと連絡先記入は求められます。
今のところ、混雑の心配はないと思います。
オルガー・マチス ggg Books 14(スリージーブックス 世界のグラフィックデザインシリーズ14)
- 作者:マチス,オルガー,Matthies,Holger,一光, 田中
- 発売日: 1998/06/01
- メディア: 単行本