仁和寺霊宝館の阿弥陀三尊

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第五十八代光孝天皇崩御1133年記念事業 仁和寺霊宝館秋季名宝展

■2020年9月19日〜12月6日

 

仁和寺霊宝館の主役、国宝 阿弥陀三尊(阿弥陀如来坐像及び両脇侍立像)は、888年(仁和4年)の創建当時から伝わる仏像といわれています。

 

本尊阿弥陀如来は一見すると定朝様の、つまりお馴染みの平安阿弥陀スタイルなのですが、この仏像は平等院のそれとは違い、寄木造りではなくヒノキの一木造り。

つまり、製作方法としては弘仁期彫刻の流れをくみながら、図像としては和様の典型的な阿弥陀像として成立していることになります。

稀有な作例といえます。

 

霊宝館の展示ではかなり高いところにこの三尊像が設置されています。

阿弥陀仏の顔は写真などでみるとふっくらとした柔和さが印象的。

でも下から仰ぎ見ると救済者としての崇高さが強調されて目に写ります。

実物を観るとポスターなどに写されたこの仏像のイメージとはやや違う印象を受けます。

 

弘仁期様式の特徴を端的に現しているのは、本尊よりむしろ両脇侍でしょうか。

どちらも下半身のマッスが非常に充実しています。

もちろん神護寺薬師如来立像ほどパンパンに膨らんでいるわけではありません。

しかし上半身の優美さに比べて明らかに下半身、特に太腿辺りの肉感の張りは一木造りならではの力強さが感じられます。

 

本尊阿弥陀如来に再び目を移すと、肩から胸へのラインが、後年の定朝仏様式に比べてやや緊張しているように見えます。

両脇侍の、垂直ラインが強調された造りと相まって、この三尊像特有の高密度な美空間が醸し出されています。

ただ、そこが、さらに極楽浄土を願う平安貴族には物足りないところでもあったのでしょう。

図像としては定印を結ぶ等、平安阿弥陀如来像としてほぼ完成形をみたのに、もっと浮遊感、浮世離れした完全な優美さを求めて平等院の世界、定朝仏が誕生することになります。

仁和寺阿弥陀三尊は、弘仁期様式と、それに続きながらも大きな断絶を見せる定朝様式、二つのちょうど中間に位置する仏像。

今回観賞してあらためてその価値の大きさを再認識しました。


なお今回の秋季名宝展では空海自筆と伝えられる「三十帖冊子」の一部が公開されています。

とても小さい、平安時代密教ミニノートブック。

びっしり丁寧に書かれた文字に入唐時代における空海の向学心、その結晶をみる思いがします。

12年ぶりの貴重な展示です。


今年はコロナ影響もあってか、紅葉シーズンにもかかわらず境内の人口密度はかなり低く感じられます。

平日昼過ぎの霊宝館は閑散としていて、じっくり観賞することができました。

11月中旬現在、霊宝館では入り口で高性能サーモグラフィによる体温チェックがあります。

事前予約は必要ありませんが、混雑すると入場制限をかけるようです。

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仁和寺https://ninnaji.jp/about_culturalassets/statue/

 

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