いのりの四季 ー 仏教美術の清華
■2020年11月1日〜2021年1月17日
■相国寺承天閣美術館
見所は大きく二つと感じました。
一つは後水尾院と相国寺の密接なつながりを物語る品々。
後水尾天皇というとすぐに修学院離宮と結びつけてしまいますが、離宮の造営は1651年、慶安4年。
出家した後、すでに50歳代後半に入っていた法皇の事業です。
30代半ばで譲位し、後水尾院となってから落飾するまで、上皇の精神世界に深く関与したのが相国寺。
近所でもあった仙洞御所に寺僧を招き、観音菩薩に滅罪を祈る「観音懺法」を執り行わせたのだそうです。
1645年(正保2)年に院から相国寺にその観音懺法で用いられた法具が寄進されます。
今回の企画展では、初公開品を含むそれらの法具がまとめて展示されていて、往時の儀式を偲ぶことができます。
狩野探幽筆とされる観音図を囲んで、黒々と威厳と端正さを併せ持つ見事な工芸品が置かれています。
黄金を纏った天目茶碗を模した用具など、まさに帝王の美意識が滲む名品の数々。
なんと今でも実際の儀式で使われている法具もあるのだとか。
院と親交が深かった鹿苑寺鳳林承章(後に相国寺第九十五世)の貴重な日記 『隔蓂記』も展示されています。
さらに、法具寄進に際して仲介役を担った坊城俊完の書状など、当時の相国寺と後水尾院をめぐる文芸系エスタブリッシュメントたちの足跡を辿ることができる品々も確認することができます。
これらが法具の存在感を深めていて、奥行きのある企画と感じました。
二つ目の見どころは陸信忠による「十六羅漢図」。
陸信忠は元朝初期の画家と伝えられる人。
まったく独特の画風です。
中国伝統絵画に連なるというより、若冲・蕭白に代表される江戸奇人画家の元祖と言いたくなるような異形の羅漢図。
十六図、全て一気に展示されるのは今回がはじめてなのだそうです。
驚くのは羅漢たちのキャラクター造形。
写実と幻想の味が渾然一体となった表情。
見事に残った彩色が生き生きと彼らの個性を浮き立たせています。
加えて、羅漢たちと競演する動物、幻獣、魔物たちの描写。
あまりにも独創的。技巧的にも高度な筆力が示されていて、見応えが半端ない。
羅漢像というと人の良い純粋さが尊ばれたりしますが、ここに描かれた16人はいずれも何がしかの幻術魔術を操りそうな奇人たちの風貌。
妖しい魅力に溢れています。
宮内庁に移ってしまった若冲の銅植栽絵ほど大振りではありませんが、相国寺に残る宝として、十分それに比肩するエキセントリックな名品。
11月下旬現在、承天閣美術館は予約不要。
体温チェックがあるのみです。
この企画展は期間中、無休(年末年始は除く)なので月曜日の美術館一斉休館日でも開いています。
全図公開の十六羅漢図はもう一度、観賞したいくらい、素晴らしい内容でした。