ホモ・サピエンスの涙(ロイ・アンダーソン監督)

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■「ホモ・サピエンスの涙」(2019 ロイ・アンダーソン監督)

 

「銀行を信用できない男」のシーン。
寝室とそこから見える奥の部屋の構図。
その整然とした配置と映像の淡い色調。
ウィルヘルム・ハマスホイの絵画を想像してしまいました。

 

東京都美術館が今年の春に企画したハマスホイ展。
コロナのため会期が縮小されてしまいましたが、なんとか観賞することができました。
彩度を抑えた静かな空間描写。
幾何学的といえるくらい整えられた構図の美しさ。
饒舌さと無縁なのに、何かを語りかけてくるその独特な画風に魅了されました。

ロイ・アンダーソンが創造した「ホモ・サピエンスの涙」は、まるでハマスホイ絵画が連続するような映画による画集。
デンマークスウェーデン。画家と映画監督の出身地は違いますが、どこか空気感を共有しているように感じます。

 

「男を見た」「女を見た」と語る女性の声が各シーン に付与されています。
見られた彼、または彼女たちは、信仰を失った聖職者であったり、シャンパンがただ好きな女性であったり、猜疑心から暴力をふるう夫とそれを毅然と受け止める妻であったりします。
時空は自由に設定され、現在なのか未来なのかわからない場面や、ヒトラーが絵画のように描かれる過去の世界も挿入される。
脈絡らしいものはありません。
美男美女はほとんど登場せず、不健康にでっぷり太ったおじさんたちの出番が多い。
しかし、どの場面もなぜか、息を呑む美しさ。
対象物の美醜を超えた存在そのものの美しさが映し撮られているという意味で、正真正銘の美術映画、または映画美術。

ホモサピエンスたちを見ている声の持ち主は誰なのか。
ゴルゴタの丘に登らされるキリストに模された男が描かれるシーンがあります。
ではその声の主は「神」なのか。
どうもそうではないように思えます。
十字架を背負わされている夢の中の男はどこか滑稽さがあり、夢から覚めて「手に杭を打たれた」と泣きわめくその様子は、まるでブニュエル映画に出てきそうな存在。
これが神の視点であれば、それはかなり意地悪な神様ということになってしまいます。

 

冒頭と最後の場面。
どちらにも天空にV字を描いて飛ぶ鳥の群れが映し出されます。
どうやらその鳥の中の一羽が声の主のように思えたりもしますが、そんな詮索や想像自体が野暮なのかもしれません。
誰なのかわからない「声」が担った役割は、このあまりにも美しく滑稽でしかも悲しい映画に
神話性と寓話性を与えるためのエフェクトなのでしょう。

 

なんのつながりもないシーンの連続。
でも、先にふれた最初と最後に現れたV字に飛ぶ鳥の群れや、一人だけ観客に呼びかける役を担わされた男、そして空中を浮遊する謎めいた恋人たちと、意味ありげに「二回」登場するキャラクターが設定されています。これは一種の「枠組み」として仕込まれたものともみれる。
アンダーソンは「額縁」も忘れない映像作家だと思います。

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