■2020年11月14日〜2021年1月24日
■アーティゾン美術館
17世紀から19世紀前半までの絵師たちをつなぐ琳派と、19世紀後半が中心の印象派。
京都・江戸と、パリ。
時代も場所も違う両者が直接的に影響しあったことは無い中で、二つの絵画の流れを比べるとどうなるのか。
結論から言えばやはり特別な関係は無い、ということになりそうですが、いずれも目を喜ばせる流派なので、古臭い言い方をすれば一粒で二度美味しい。
美術史的に両派の共通点を探るというより、素直に感覚的愉悦に浸ってみる。
そういう展覧会だと思います。
前半は琳派中心です。
(2/22からの後期は建仁寺の「風神雷神図」に入れ替えとなります。)
尾形光琳「孔雀立葵図屏風」は近年石橋財団の保有になった作品だとか。
左隻の立葵と右隻の孔雀が絵柄としてまったくつながらない二曲一双。
小林忠の解説によれば、元々二つの図像は表裏に描かれていたのだそうです。
色彩を抑え金箔の荘厳さを生かした孔雀図に対して紅白の花と鮮やかな緑の葉を垂直にデザインした立葵図。
発注者の九条家でどのように使われていたのか想像するのも楽しい作品でした。
酒井抱一の「白蓮図」(細見美術館)は水墨の淡いグラデーションが繊細で柔らかい蓮の質感を表現しつつも構図は大胆。
写実とデザイン化の絶妙な間の妙がみられます。
「伊年」印から鈴木其一まで、この美術館の収蔵品に加え、各地のミュージアム、お寺から満遍なく琳派の優品が揃えられています。
他方、後半の印象派についてはアーティゾン美術館コレクションからのピックアップが中心。
琳派と印象派をつなぐほとんど唯一の共通項として、「扇形」が取り上げられています。
一例としてマネとドガが描いた扇形の画面を紹介。
琳派が扇を使って絵巻から場面をトリンミングし屏風などに仕立てた手法とは違い、印象派の場合は扇形から覗かれた風景の面白さが主題。
同じ形を使うにしても東西では根本的に美意識が違っていることが示されています。
先日、京都国立近代美術館が開催した染織家森口邦彦の講演会を聞きました。
彼が印象的に語っていたのは、現代グラフィックデザインと琳派の共通点。
対象からかたちの要素を抽出して明快に示していくという点で、両者にはごく近似の要素があるという指摘がありました。
さて一見、ほとんど共通項がないと思われた印象派と琳派ですが、展覧会の終盤で驚きの競演がみられました。
鈴木其一が描いた「富士筑波山図屏風」。
そして、セザンヌの「サント・ヴィクトワール山とシャトー・ノワール」。
其一の筑波山は極端に単純化された図像なのですが、都心から遥かに望むその山の形や色はまさにこれ。
二つの頂から向かって右側に緩やかに傾斜していく斜面と青く灰色味を帯びたシルエット。
記号的といってもいいくらいデザイン化された筑波山の姿です。
他方、セザンヌのサント・ヴィクトワールも、山そのものだけを抽出したような純粋な存在感が際立ちます。
共に余計なものを排除しつつも、対象に残ったかたち・要素の美を明示しています。
森口邦彦が琳派の特徴として指摘した「デザインの抽出」が、セザンヌの透徹な画風にも、期せずして明確に共通して現れていると感じられました。
アーティゾン美術館5,6階を使って100点あまり。
賑やかな風神雷神が登場する前だからなのか、平日昼間の前期展示は閑散。
鮮やかな色彩が目に眩しいくらいの宗達「舞楽図屏風」をしばらく独占して鑑賞する贅沢を味わうことができました。