■2020年11月14日〜12月20日
国宝7点、重要文化財88点。
私設美術館としては特級のコレクションを有している根津美術館のハイライト特別展です。
古くは殷代の青銅器から江戸後期の琳派まで。
初代根津嘉一郎(青山)の好みはかなり幅広いわけですが、どこか筋が通った一貫性がみられるように感じられます。
写経や禅の偈等、漢籍の充実ぶりに比べると、書のカテゴリーにおける和様の筆は少なく思われます。
松原茂学芸部長によると、根津は古筆について「女々しい」としてあまり好まなかったそうです。
コレクション中、もっとも有名な国宝「那智瀧図」にみられる凛とした品格。
同じく名物の尾形光琳「燕子花図屏風」は、比類ない華やかさに目を奪われるものの、構図、デザインは余計なものが排されているので、全体としては優雅さよりキリッとした気品が漂います。
優美さよりも格調高さ。
これが根津青山のお好みだったのではないかと思えてきます。
殷代青銅器では「饕餮文方盉」。
鳥獣が象られた四つ足の酒器。
まとった緑青まで気品を演出しています。
写経では「無量義経・観普賢経」。
平安時代に写されたものですが、その高雅な筆致にみいってしまいました。
呂敬甫の「瓜虫図」は明代の絵画。
繊細な筆致で瓜のツルや蜻蛉などの虫たちが描写されています。
工芸的といってもいいくらい洗練された技巧。
鎌倉期の作といわれる「大威徳明王像」はたくさんある手足と顔が圧倒的迫力の火炎と相まって異形の美を醸していますが、不思議とグロテスクさが勝つことはなく全体として威厳が伝わる仏教絵画の名品です。
つい先日まで東京国立博物館の「桃山」展に出張していた青磁「大内筒」が帰還。
この他、高麗から伝わった「青磁蓮華唐草書浄瓶」、青井戸茶碗「銘 柴田」など、どれも派手さよりも奥深い味わいのような美があらわれている、この美術館の趣向が推しはかられる茶道具類の数々。
青山が「女々しい」として好まなかったという古筆にしても飛鳥井雅経の「熊野類懐紙」などしっかり優品はコレクションに加えています。
茶席での取り合わせという「機能」を重視すれば、「女々しい」といっていられなかった、ということかもしれません。
近代実業家系数寄者の、一種の合理性が現れている例とみました。
大人気の「燕子花図屏風」は12月1日から13日までの限定公開。
ちょうどその展示期間に訪れたためか、平日午後にしてはやや観客の人数は多め。
それでもこれだけこの美術館の「美味しいところ」を集めた展覧会にしてはゆったり鑑賞できる程度の余裕がありました。
事前予約制です。