特別企画展 バシェ音響彫刻
■2020年11月7日〜12月20日
■京都市立芸術大学ギャラリー@KCUA
白銀色の葉っぱのようなオブジェ。
この部分を叩いて音を出すだけかと思いきや、これは反響板の一種。
音を奏でる部分はこの葉っぱにつながれた線状のスチール。
指でこするとグラスハーモニカのような浮遊感を伴った高い音が響く仕組み。
無機質のメタリックな物体と人の指が直接触れ合って生み出される摩訶不思議な音の減衰。
新鮮なようでどこか懐かしい響き。
フランソワとベルナールのブシェ兄弟が創り出した音響彫刻。
1970年の大阪万博に招かれた彼らが残した作品が有志たちによって復元されています。
万博後、解体されて倉庫に眠っていた作品。
2010年、大阪万博旧鉄鋼館をEXPO'70パピリオンとしてリバイバルさせることにあわせて、そこに展示されていたバシェ作品の復元が企画されたのだとか。
20世紀に発明された楽器の中で、例えばオンド・マルトノはトゥランガリラ交響曲や「美しい水の祭典」といったメシアンによる名曲が残され、ジャンヌ・ロリオや原田節等、優れた専門奏者たちのおかげで音楽史の中にしっかり残っています。
しかしバシェの音響彫刻ときいても具体的な楽曲名は、私には思い浮かびません。
大阪万博鉄鋼館における演出プロデューサーだった武満徹がいくつか楽曲を作ったようですが、視覚も含めた「現場性」がとりわけ重要なバシェ作品は音響メディアでは捉えられにくかったのか、メジャーなディスク記録も思いつかない。
一時はかなり注目を集めたようですが、現在、バシェ芸術が音楽史の中で占めている位置は微妙と感じます。
しかし、この展覧会で実際、いくつかの音響彫刻を奏でて見ると、その豊かに複雑な倍音の響きや、まさに自らが音を創り出す新鮮さに惹き込まれてしまう。
芸術におけるインタラクティブ性がとりわけ重要視されている現在、バシェ兄弟の遺産は新しい輝きを得つつあるのかもしれません。
長く減衰していく響きを活かせば、あたかも50年代風の前衛音楽がすぐ誕生。
一方、短くパルスを刻むように奏すればミニマルミュージックやフォークロア音楽の一種のようにも響く。
声やコントラバスといったノイズ成分を多く含む音ととりわけ相性が良いようです。
基本的に澄んだオクターヴで構成される西洋音階に対して、尺八や琵琶などの和楽器が奏でる音は豊かに雑音を含み、音階も曖昧に揺らぎます。
バシェ作品は材質や作成方法に置いて20世紀西洋工学の流れを汲みながらも、奏でられる音響は和楽器のように非西洋的な「割り切れない」性質を持っています。
メタリックなアナログの面白さ。
他方で、現在の技術でこの究極的なアナログ音響をデジタルで再表現することも可能となっています。
21世紀、限定的ではあるにせよ、バシェ兄弟のリバイバルが日本で起こったことはとても面白い現象。
バシェの復元作品は今年の4月から7月にかけ、川崎の岡本太郎美術館の企画展で紹介されましたが、未鑑賞のまま閉幕。なんとか京都で体験することができました。
堀川御池のKCUAは無料展示。
子供たち向けに作られた音響彫刻は実際に演奏することができます。
映像アーカイブも豊富。
事前予約は必要ありません。受付で連絡先記入は求められます。