東福寺駅(京阪・JR)から徒歩で東福寺に向かうと、自然に北門から参道を進むことになります。
広大な伽藍の入り口にあたる臥雲橋を渡る手前、左手に小さい門があります。
それが月下門です。
開山堂等が建てられている東福寺北側の一角、常楽庵の門にあたります。
常楽庵内部に入るには一旦拝観の受付を済ませて通天橋を渡る必要がありますが、月下門は境内に入る手前、参道からその外観をみることができます。
常時閉じられていますから門をくぐることはできません。
一見、とても地味な建造物。
秋は紅葉の雲海が広がり、通天橋も視野に入る絶景スポット臥雲橋を前に、ほとんど注目されず、通りすぎてしまう人が多いと思います。
でもこの門、とても貴重な存在。
東福寺伽藍に立ち並ぶ荘厳な建物とは違う、シンプルな気品をあらわす構え。
重要文化財です。
1268(文永5)年、亀山天皇より下賜されたという由緒を持ちます。
この門は「月華門」とも記されます。
これは内裏、紫宸殿南庭にある門の名前。
鎌倉時代後期、ちょうど北条時宗が執権職についた頃、御所からこの地に移された門ということになります。
現在の京都御所内にももちろん月華門があります。
こちらは華やかな朱塗、堂々とした瓦葺。
一方、鎌倉後期の御所にあったと思われるこの東福寺月下門は質素といってもいいくらい軽やかです。
度重なる戦禍や火災によって京都市内に残る鎌倉時代の建造物は本当に少ない。
この門はその目立たない造形や、小ささが幸いしたのか、難をまぬがれ奇跡的に古風を伝えてくれています。
瓦葺が一般的な禅宗様建築とは違う檜皮葺のまま残されています。
そこがこの門のもつ優雅さと格調高さに貢献。
もし朝廷から賜ったという経緯がなければ、寺の方針で改変されてしまったかもしれない。
絶妙に楚々とした四脚の配置、現在のバランス感覚からは出せそうにない屋根の曲線美。
微妙な歴史の差配で生き残った鎌倉時代の名建築だと思います。