特別企画 文化財保存修理所開所四十周年記念
文化財修理の最先端
■2020年12月19日〜2021年1月31日
■京都国立博物館
京都国立博物館の敷地内にある文化財保存修理所の開所40周年を記念し、特別展示が催されています。
独立した企画展ではなく、コレクション展の中に組み込まれた特集展示です。
以前、足利尊氏の肖像画として歴史の教科書にも登場していた有名な「騎馬武者像」があります。
現在では高師直、またはその子である師詮との有力な説が提出され、画像の主が誰なのか、結局、特定されない絵となっています。
「足利尊氏像」から単なる「騎馬武者像」へ。
修復作業による発見によって絵画のタイトル自体が変わってしまいました。
高温多湿の国、日本。
放置すれば崩れていく繊細な木と紙の美術が大半です。
昔から修理修復、原型保持を目的とした対処は行われていて、この「騎馬武者像」も1916(大正5)年に模写が行わています。
その模写を2011(平成23)年、さらに修復する作業をした際に、この像を足利尊氏とする根拠を喪失させる発見がありました。
また、刀を肩からかけた印象的なこの肖像画を修理した際、下書の図が現れたのだそうです。
そこには弓が描かれていました。
彩色の段階で塗り重ねられたため、図像として採用されなかったことになります。
馬の横顔から武者の顔につながっていく斜め右に向けた絶妙なラインを考えると、弓の図像は邪魔だったのかもしれません。
修理することによって明らかになる中世絵師のセンスです。
国宝「病草子」は昭和初期に絵巻から各段が分割され、現在は京博の他、サントリー美術館など、各地に点在しています。
京博では、絵とその説明書を糾合し、絵巻の姿に戻す修復を実施。
今回は「二形(ふたなり)」、「眼病治療」、「霍乱」の三点が展示されていました。
「病は前世の報い」と仏教的に解釈されていた時代に描かれた作品です。
畸形者や患者を嘲笑うような詞書が添えられることによって、不謹慎なシュールさが漂います。
伊藤若冲の「石燈籠図屏風」をはじめて観ました。
点描であらわされた燈籠の不思議なモダニズム。
動植綵絵の画家とはちょっと思えない極端に様式化された画像。
これは本当に若冲の作品なのか。
それを明らかにしたのが屏風の解体修理でした。
若冲自身によるサインや印が付随していた墨書から判明したのだそうです。
おそらく晩年を過ごした深草あたりの風景を描いたらしい。
画に対する異様な執念と老いからくる絵筆の限界が奇妙に調合された水墨です。
今や京都国立博物館の顔といってもいい安祥寺の国宝「五智如来坐像」。
常時展示されることが多い仏像ですが、あまりにも美しいのでいつみても涙がこぼれそうになる平安仏像彫刻の大傑作です。
この像も3年かけて剥落などの修理が行われ、現在の姿が保たれています。
顔の真ん中からまた顔が出ていることで有名な異形の仏僧像、「宝誌和尚立像」。
平安時代の木彫で、「ミルフィーユ」のように虫喰いが進んでいたのだそうです。
表面から樹脂を塗ることで崩壊を免れました。
今回の展示では安祥寺大日如来の対面に置かれ、とてつもなく深淵な対話が聞こえてくるようです。
保存と発見。
文化財修復の奥深さを体感できる秀逸な特別展示だと思います。
企画展ではないからか、現在京博は事前予約不要。
体温チェックがあるのみです。
週末の午後に鑑賞しましたが、混雑はまったくなく、快適でした。
相変わらず陶器や考古の常設展示も充実しています。