兵庫県立美術館の具体コレクション

f:id:karasumagaien2:20201226225112j:plain


開館50周年記念 今こそ GUTAI  県美の具体コレクション

■2020年12月5日〜2021年2月7日
兵庫県立美術館

 

具体美術協会の導師、吉原治良の「黒字に赤い円」が展覧会の冒頭を飾っています。

彼のもとに集ったアーティストの作品70点あまり。

兵庫県立美術館が有する「具体」のコレクションを一気に特集するという企画展です。

www.artm.pref.hyogo.jp

 

巨大な赤い図像が印象的な元永定正の「タピエ氏」。

「具体」の存在を世界に認知させたフランスの批評家、ミシュエル・タピエへのオマージュ作品です。

この絵は兵庫県立美術館が直接的に入手したものではありません。

実業家山村徳太郎のコレクションからこの美術館が買い取ったものです。

 

西宮出身の山村は海外に流出していた「具体」の作品を現地にまで出向いて「買い戻した」コレクターとして知られています。

1986(昭和61)年、山村コレクションを受け入れたことによって、県立美術館の「具体」はぐんと幅を広げたことになります。

今回の展覧会では、いわば、「具体」のコレクターとしてライバル関係にあった県立近代美術館と山村との関係を含め、1954年から1972年まで続いた阪神間ゆかりのアーティストグループをさまざまな視点から回顧しています。

本来は別の企画展を準備していたそうです。

コロナの関係で開催が難しくなり、代わりに「具体」。

厳しい状況だからこそ、この美術館の最も得意とするコレクションをあらためて問い直す。

ある意味、兵庫県美、渾身の企画といえそうです。

 

「具体」は多くの女性アーティストが参加したグループでもあります。

女性作家たちをまとめて展示したコーナーが設けられていました。

 

白髪富士子は夫の一雄とは対照的に色彩を限った一見スタティックな作品が特徴的。

でも、じっと観ていると白髪一雄とは別の情念がじんわり伝わってきます。

「具体」の女王ともいうべき田中敦子の作品が当然多く紹介されています。

生理的といいたくなるような丸、丸、丸、の描画たち。

その中でも「ベル」はかなり異色の作品。

電気ベルのボタンが置かれただけ。押せば本当に鳴るようです。

でもそこには注意書きがあって、希望者には使い捨て手袋を用意するとありました。

コロナ対策でしょう。

やや配慮しすぎとも感じます。

でもこんな措置によって「ベル」は、新しい価値をもったといえなくもありません。

 

f:id:karasumagaien2:20201226225029j:plain

「ベル」を前に鑑賞者は今までにない種類の逡巡を迫られます。

押してみたいけど手袋をスタッフの方にわざわざ持ってきてもらうのはちょっと申し訳ないなあ、とか。

山田敦子はそんな鑑賞者の迷いを前提としてこの作品を制作したわけではありません。

コロナによって作品と鑑賞者の関係が作者の意図とは関係なく劇的に変化しています。

 

しかし、逆のケースもあるかもしれない、とも考えられます。

コロナに関係なく、もともと不特定多数の他人が素手で触れたものには触れられない性質を持った鑑賞者には、手袋があれば存分に「ベル」を押すことができます。

作家と作品と鑑賞者。コロナにかき混ぜられる三者の関係。

これぞ、「具体」。

だから、まさしく「今こそ GUTAI」?

名取有子の「作品I」はひたすら同心円が描かれています。

樹脂を盛った絵と彫刻の中間的作品。田中敦子の生理的な「丸」とはまた違った執拗な「円」。

f:id:karasumagaien2:20201226225732j:plain

 

個性が炸裂した作品が続きますが、吉原治良のシンプルで容赦ない作品と拮抗するような力をもった作家となると、やはり元永定正と白髪一雄の二人でしょう。

特に元永の色彩世界は半世紀以上経った今でも時代を感じさせない魅力があると感じました。

 

12月下旬現在、この企画展は事前予約優先制。

いわば拡大された常設コレクション展なので話題性がとびきり高いとは言い難いかもしれません。

平日午後、場内は閑散としていました。

でも内容は見応え十分の「具体」総特集です。

 

f:id:karasumagaien2:20201227074013j:plain