京都国立近代美術館では今年度最後、第4回コレクション展が開かれています(2020年12月24日〜2021年3月7日)。
4階中央のコーナーを使って三島喜美代が特集されていました。
京近美が以前から所蔵する油彩等に加え、2019年度、新たに収蔵したセラミック作品を披露。
全部で8点。
陶器に新聞やマンガ雑誌、チラシ、空き缶などを転写した代表的な三島芸術が展示されています。
作品に実際触れることができるコーナーが設けられています。
丸められた新聞紙。
凹んだコカコーラの空き缶。
実際に触ってみるとそのひんやりとザラつく質感に驚きます。
視覚はアルミ缶として物体をとらえているのに、触覚は陶器と感じるトリッキーな体験。
新聞紙や空き缶は丸めても蹴っても、簡単には破けも壊れもしませんが、陶器は壊れます。
「ゴミ」に突然備わる脆弱な緊張感が刺激的です。
「かご 2017」に放り込まれた夥しい空き缶。
金麦やペプシのストロングゼロなど「近作」の空き缶もちらほら見えます。
見た目は明らかにゴミなのですが、その「正体」の触感と重さを認識した後に鑑賞すると、モノの本質とは何なのか、思考が攪拌されるような軽いめまいを覚えます。
かごの中のサッポロ黒ラベルの空き缶は、それをかごから出して地面に落とした瞬間、おそらく粉々に砕け散ります。
その壊れるであろう予感がモノとしての有り様にまとわりつく。
陶器で作られていると知らなければ、「ゴミ」。
知ってしまうとフラジャイルな「アート」になってしまう。
視覚と触覚、表象と認識。
見れば見るほど哲学的な問いを発してくるような、あるいはそういう思考回路を嘲笑うような作品が並んでいます。
展示室中央にばら撒かれた「びら 2017」。
こちらは投げ売りセールのチラシです。
一枚一枚に赤と白の単純、かつ、これ見よがしなセールス文句が踊る。
所々波打つような凹凸が再現されています。
その微妙なラインをみると、これが紙ではなく陶器とかろうじてわかります。
セールス期間の役目を終えれば正真正銘のゴミクズ。
でもこれも陶器。
騒々しいミニマルアートのようにも見えてきます。
「コミックブック2017」は、少年ジャンプやマガジンといった漫画雑誌が積み重ねられた作品。
新品ではなくいかにも読み捨てられたような風情が再現されています。
漫画雑誌は焼けば燃えますが、この作品は燃えません。
どう見ても本物のマンガにしか見えない。
でも触ればこれも「ひんやり」するのでしょう。
この作品でも感覚と認識の「でんぐり返し」的混乱が味わえると思います。
そろそろ90歳を迎える三島喜美代。
各地で個展がよく開かれています。
京近美のコレクションに加わった最近作を見ても衰えがみられません。