配給: パンドラ
出演: ソフィコ・チアウレリ、メルコン・アレクヤン、ヴィレン・ガスチャン他
撮影: スゥレン・シャフバジャン
美術: ステパン・アンドラニキャン
音楽: チグラン・マンスゥリャン
監督・原案: セルゲイ・パラジャーノフ
冒頭、「これは詩人サヤト・ノヴァの伝記映画ではない」とまず宣言されます。
その通り、伝記どころか、筋書きすらほとんどありません。
パラジャーノフによる詩的な動く絵画芸術映画です。
昨年没後30年を迎えたパラジャーノフの特集。
「スラム砦の伝説」、「アシク・ケリブ」、「火の馬」と続けて観てきました。
最後にこの監督の最高傑作を鑑賞。
かなり時を経ての再鑑賞です。
幼年、青年、中年、老年と4人のサヤト・ノヴァが登場しますが、表面的な人物イメージはほとんどつながりません。
特に青年期を演じているのは、詩人が愛した王女その人を演じているソフィコ・チアウレリ。
性別を超越したこの世のものとは思われないような美しさを漂わせています。
チアウレリはこの他にもいろんなところに謎めいた象徴として登場する、まさにこの映画のアイコン的存在です。
彼女の存在そのものがパラジャーノフにこの映画を撮らせせたのではないかとも思えてしまうくらい、詩的かつ絵画的な美しさをもった人。
後年(1984年)、「スラム砦の伝説」で老いた女占い師役としてふたたび出演しています。
当たり前ですが、ほんとに老いてしまっていて、言われなければわからないほど。
1969年、「ざくろの色」のチアウレリは奇跡的象徴美を備えていたようです。
幼年・青年期と老年期の詩人は雰囲気に独特の透明感があります。
それに対して中年期、修道院で暮らす詩人はどこか具体的な性格を感じさせるような相貌。
神に仕える修道院を出て、再び「言葉」をつむぐ詩人として自らを解放した時、幼年・青年期の透明な美が老いた詩人の顔に戻ってきた。
そんな風に感じました。
「スラム砦の伝説」や「アシク・ケリブ」にみられる饒舌さ、落差の激しい喜怒哀楽表現が「ざくろの色」ではほとんど感じられません。
その分、パラジャーノフの視覚的幻術が純粋に画面を支配し続ける70分。
いくつもの中世アルメニア、グルジア地方の教会建築が登場するのもこの映画の見どころです。
世界遺産ハフパット修道院とサナイン修道院他、重厚さと古雅さを併せ持ったロマネスク様式の建物の上を登場人物たちが縦横無尽に歩き回る。
現在ではこんな撮影は難しいのではないかと思われます。
いちいちこの映画に描かれる象徴的文物を解読することは野暮だと思いますが、柘榴は流される血を象徴すると同時に至高のジュースにもなるという果実。
生死を同時にあらわす色。
ということでしょうか。