江里佐代子 截金の世界

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京の至宝II 江里佐代子 截金の世界 

■2021年1月2日〜24日
■美術館「えき」KYOTO

 

江里佐代子(1945-2007)は、截金という典型的な伝統工芸をある意味解き放ったアーティストといえるかもしれません。

截金は繊細さの極地を追求するミクロの金箔技法です。
しかも近世、特に本願寺と結びついた仏教美術での使用が前提とされたために、そのデザインには一定の図像的ルールが厳然として残っています。
さらに一子相伝で技を受け継ぐ伝統の縛り。
截金は幾重にも「制約」が課された工芸分野ともいえます。

江里佐代子は截金の家に生まれたわけではありませんが、仏師江里康慧と結婚したことでこの工芸技法の道に進むことになります。
その時点で想像を絶する決意があったはずですが、それ以上に、このとにかく超絶さを要求されるテクニックを身につけてしまった才能にまず驚きます。


夫、康慧の掘り出した仏像たちが展示されています。
佐代子によって施された截金が真新しい白木の像を荘厳しています。
年月と共に木材はおそらく味わい深い陰翳をまといますが、截金の光は逆にに輝きを増していきます。
100年後の姿を想像したくなる釈迦如来坐像でした。

しかし、仏教美術の枠に止まらなかったのが江里佐代子という作家です。
その代表的な作例が「截金彩色まり香盒」の一群でしょう。
まるで王朝時代の装束を球体に写しとったかのようなガラスの鞠が一ヶ所にまとめて展示されています。
截金の伝統的パターンを纏いつつも、それが完全な球体に移植されることで、過度な抹香臭さから解放され、近世的な雅の美が結晶。
より純粋な彩色・造形美への志向がみられます。
いくつかの額装や「風炉先屏風○△□」などからは、モダンさすら漂います。

この人の截金装飾が、京都迎賓館の内装で採用されたのも厳格な宗教文様規則から解放された截金の、純粋に美しい仕様が受け入れられたからなのではないでしょうか。
この展覧会では京都迎賓館を飾る彼女の試作を間近に観ることができます。

ただ一方で、「截金飾筥 華遊」などにみられるように、仏教美術の伝統的文様がそのまま工芸としての品格を際立たせている作品もあり、彼女が決して単なる伝統からの逸脱者ではないことも展示品の数々から感じとれます。
一子相伝の伝統は長女江里朋子にしっかり受け継がれているようです。
彼女が復刻した「截金サンドウィッチガラス」はこの技法の淵源、ヘレニズムまで遡る美を具現化して見事です。

しかし、江里佐代子はこの一子相伝の伝統をも解き放っています。
近年、目覚ましい活躍をしている截金ガラスの工芸家山本茜は江里から手ほどきを受けた人です。
山本の作品には江里佐代子の「まり香盒」からの影響が明らかにみられると思います。(なお今回の展覧会では山本茜の作品は紹介されていません)

守りつつ解き放つ伝統。
矛盾しているようで、これこそ伝統美の理想的な受け継がれ方のようにも思います。

 

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