平等院鳳翔館の空間美|栗生明設計

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宇治、平等院の境内、鳳凰堂のすぐ南に寺宝を収めた「鳳翔館」があります。

設計は栗生明(1947-)。

2001年の竣工です。

平等院拝観料の中に鳳翔館の鑑賞料金も含まれています。

しかし、ここは、お寺に附随する「宝物館」というレベルを超えていて、独立したミュージアムとしても十分機能しています。

ただ、なにせすぐ隣に世界遺産にして国宝の鳳凰堂があります。

当然に鳳翔館はその景観を邪魔しないように、建物の大半が小さい丘の下に隠されています。

地上に顔を出しているのはミュージアムショップなどが入る最上階のフロア一角のみです。

 

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栗生明は槇文彦設計事務所で仕事をした経歴を持つ建築家です。

師匠にあたる槇の思想を受け継いでいて、その理念として「品格のある美しい風景」を志向しています(栗生明+栗生総合計画事務所のHPより)。

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この鳳翔館も、"desency"の建築家・槇文彦の語法にどことなく通じているように感じられます。

周囲と見事に奥ゆかしく調和。

長方形を基本としたシンプルかつモダンなデザインで全体が統一されています。

照明がかなり落とされた室内では、余計なノイズなく平等院の至宝を堪能することができます。

極楽浄土の洗練を尽くした華やかな鳳凰堂の世界から、鳳翔館の中に入ると、モノクロームの静かで荘重な空間が広がっています。

鳳凰堂自体が非日常の極みなのですが、まったく違った語法で異空間に誘われるので、鳳翔館もまたそれ自体で別の非日常世界を具現化しています。

 


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入館してはじめに現れるのは梵鐘。

日本三大名鐘のひとつとして知られています。

響きの良さでは「音の三井寺園城寺」、銘文の素晴らしさでは「銘の神護寺」。

平等院の鐘は「姿の平等院」と、その形の美しさが褒め称えられる国宝です。

美しく緑青をまといながら天女や神獣を刻んだ平安の釣鐘そのものをかなり間近で鑑賞することができます。


かつて阿弥陀堂の屋根を飾っていた二対の鳳凰

鳳翔館の中でも南北向かい合わせて展示され、高い位置から鑑賞者を睥睨しています。

気品と崇高さを兼ね備えた平安工芸の大傑作。

繊細にして先端までみなぎる高貴な力強さ。

みるたびにしばらく時間を忘れてしまう。

堂の高い位置に設置されていたわけですから、細かいところはどうせ見えない。

にもかかわらず、隅々までまったく手ぬかりなく彫像されています。

デザイン性とリアルさがこれほど美しく調和している像が他にあるのかとすら思えてしまいます。

 


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でもなんといっても、鳳翔館の主役は鳳凰堂の阿弥陀如来を荘厳していた雲中供養菩薩。

52躰のうち、半分の26躰が一室まるまる専用の空間を設けて展示されています。

それぞれにまったく違う表情をしているのですが、いずれにも共通するのがその類例をみない優美さ。

日本の木彫の中で何が一番好きかと問われれば、即座にこの菩薩たちと答えることにしています。

やや惜しいのは、全てを近接して鑑賞できるわけではなく、中にはかなり高い位置に置かれてしまっている像があること。

ここを鑑賞する際はオペラグラスが必携でしょう。

 

平等院鳳凰堂がとにかく圧倒的に素晴らしく、実際その通りなのですが、入り口からすぐのところに建っている「観音堂」も地味ながら鎌倉時代の古式をよく伝えている名建築。

その本尊、十一面観音菩薩立像が鳳翔館に展示されていました。

平安初期の一木造りなのに力強さより不思議な柔和さが漂う名品。

観音堂は現在修理中で非公開ですが、この像を収めた形で中を一度拝見してみたいものです。

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観音堂

コロナで閑散としているとみて訪問、その通りほとんど無人でした。

久しぶりに平等院をじっくり再鑑賞。

なお、2021年1月下旬現在、定朝仏が鎮座する鳳凰堂内は修理のため足場が組まれているとのこと。

今回は内部の拝観はやめておきました(阿弥陀堂内部に入るためには拝観料とは別にさらに追加料金が必要です)。

平等院のHPでは修理のスケジュールが丁寧に報知されています。

事前に状況を確認してから鑑賞することをおすすめします。

 

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鳳凰と対話する現世の鳥

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