松坂屋本店のアルカリ硫黄泉|神奈川県 芦ノ湯温泉

 

リニューアル後、かなりお値段の高い宿になってしまったのですが、箱根の中でもとびきりユニークで麗しいその湯質の魅力に負けてしまい、結局毎年のようにリピートしている宿です。

 

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箱根湯本からバスで約40分ほど。
最寄りのバス停は「東芦ノ湯」です。

もう一つ先の「芦ノ湯」のバス停はどちらかというと松坂屋本店の隣、「きのくにや」の方に近いと思います。
とはいえどちらのバス停で降りてもさほど距離は変わりません。

 

17世紀創業の老舗宿です。

1662年(寛文2年)、大南半左衛門という人がこの地に湯宿を開いたのがはじまりとされています。
大南半左衛門は伊勢松坂の出身。
だから、松坂屋

獅子文六の『箱根山』では「きのくにや」と共にここがモデルとされる宿が描かれています。
とにかく大変な歴史を刻んできた名宿です。

 

初めて訪れたのはかなり昔のことです。
その頃はまだ日帰り入浴を受け付けていて、何度か足を運びました。

隣の「きのくにや」が比較的気軽にいつでも外来入浴を受け付けていたのと違い、松坂屋本店は結構制限を設けていて、土日は「外来お断り」が多かったと記憶します。

わざわざ平日に休みをとって日帰り入浴だけのために訪れたこともあります。

とにかくここの魅力はその湯質です。

含硫黄-カルシウム・ナトリウム・マグネシウム-硫酸塩・炭酸水素塩温泉。

草津と見紛うばかりに複雑な成分が溶け込んでいます。
しかしpHは強酸性の草津とは真逆、8.1の弱アルカリ。
58℃の源泉を加水せずにかけ流し適温化を達成しています。
浴槽の中でうっすらと青みを帯びる源泉。
小さい湯花が舞っていますが、全体的に白濁するほどではありません。

 

大小二つの浴場があり、男女入れ替え制となっています。

「権現之湯」と銘々されています。
サイズにかなり差があり、当然に大きい浴室の方が開放的なのですが、湯質の点でみると小さい浴室の方がより濃厚な感じを受けます。

源泉は湯口から一旦半円形の鉢のような容器に注がれた後、鉢からつながっている浴槽内に開けられた穴からじんわりと投入される仕組み。

適温化するための工夫ですが、その古風な雰囲気が素敵です。

 

一度、小さい方の浴室の湯が見事なエメラルドグリーンに変化していて驚いたことがあります。
その黄緑色に匹敵するのは岩手・雫石の国見温泉くらいでしょうか。

箱根でこんな秘湯めいた色彩に出会えるとは思いもよらず、歓喜しながら湯浴みした記憶が今でも鮮明に残っています。

かつての経営者だった女将さんにその話をしたら、「私は真っ黄色になった時の湯を見たことがある」とおっしゃっていました。

季節や温度、その他よくわからない要因によって千変万化に色を変える、まさにマジカルな温泉です。

濃厚な源泉なのですが、弱アルカリということもあってか、肌には意外と優しい。
秘湯系のクセと名湯系の気品を兼ね備えた超名湯といえます。

 

かなり大規模にリニューアルをした後、運悪く大涌谷の小噴火に見舞われ経営が急速に悪化したようです。
現在ではかつての経営者の手から離れ、現在は塔ノ沢や仙石原に「金の竹」という高級宿を持つ企業が運営しています。

経営が変わって不安に思ったのが温泉の扱いですが、浴室の雰囲気やそこに向かうトンネルのアプローチなどを含め、大きな改変はなく昔のままです。

ただ、これは前経営者の時代にすでに変えられていたと記憶するのですが、以前「カラン」から出ていた温泉が水道水になってしまったのはとても残念な改悪でした。

 

金の竹グループ傘下になった2,3年前から貸切風呂コーナーを宿泊棟から離れたところに開設。
お洒落な脱衣スペースにシンプルな木組の方形浴槽が設置されています。

こちらも加水なしのかけ流し。
浴槽が小さいのでやや熱めになってしまいますが、周囲の冷めたい空気と組み合わせればなかなかに快適です。

予約は必要なく、空いていればOK。
夜は幻想的にライトアップされます。
カップルに嬉しい演出ですが、こちらはいつも一人なのであまり関係ありません。

 

専用の食事処で供されるのはかなり質の高い和食のコースです。

丁寧な仕事ぶりがうかがえる前菜から、お造り、揚物、椀物、台物とそれぞれ宿代に相応しいレベル。
最後は炊き込みご飯などが出ます。
相当に腹を空かせておかないと食べ切ることは難しいと思います。
客単位で小部屋風に仕切られていますから、一人泊でも落ち着いて食事ができます。

 

それとロビー横のドリンクコーナー。
嬉しいことに飲み放題で別料金は発生しません。

生ビールからウィスキー、焼酎、日本酒、ワインまで。簡単な乾き物まであります。

まあそれなりの宿代がしますからとてもモトは取れませんが、当然に湯上がりの度にどんどん飲んでしまうことになります。

 

部屋はかなり大きな和室が中心。
棟によってサイズが異なり、風呂付きの部屋もあります。
「金の竹」風のデザイナーズ仕様ではなく昔ながらの内装ですが、寝具などはお洒落に整えられています。

 

本当はもっとシンプル、かつ、リーズナブルに温泉だけを楽しみたいのですが、よく行き届いたサービスレベルでホスピタリティも価格に連動しています。
不満はありません。

温泉、食事、それと飲み放題コーナーの充実を考えるとむしろコストパフォーマンスは良いと言えるかもしれません。

 

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