歴史教科書でお馴染みの足利義満像。
威厳というよりなんとなく愛嬌が漂う、垂れ目が印象的なこの肖像画が今回の企画展ポスターに採用されています。
2部構成です。
まず展示室1では季節にあわせて梅にちなんだ寺宝が特集展示されています。
会期は4月中旬まで。
終わりに近づいた時期はおそらく桜すら散っている頃なのでタイトルに「余薫」がついているのかもしれません。
慈照寺の「墨梅図」が冒頭を飾っています。
背景にうっすらと墨をおくことで幽玄な遠近感を生み出す室町の名品。
他方、雪村の「花鳥図」はどこかふてぶてしいような雀の様子がこの人らしいユニークな小品。
工芸にも面白い作品が選ばれています。
仁清の作とされる「梅花文大壺」は縦横に罫線のようなラインが引かれていて、17世紀のデザインとは思えないほどモダンな要素を感じさせるのですが、全体的には騒がしく、かなり実験的な作品とみえます。
「古芦屋松竹梅地文釜」は金森宗和好み。
小柄で優美な造形にその典型があらわれているようです。
後半の展示室2では絵画、工芸、文書を手がかりに相国寺の歴史を紹介。
足利義満と並んで相国寺創建のキーパーソンである春屋妙葩の頂相は、実質的な開山国師なのに師である夢想疎石を相国寺第一世とした奥ゆかしい人柄まで写とられたようなリアリティが感じられます。
工芸では無学祖元が使っていたと伝わる鉢。
宋代の作。
不思議な気品をたたえた金属で、使っていた人の手触りがまるで器に写されたようなあたたかい滑らかさが伝わってきます。
若冲の「群鶏蔬菜図押絵貼屏風」は「動植綵絵」とは違う、この人の筆の速さを直接感じとることができる水墨。
ひときわ濃く描かれた鶏の尾が、六曲一双の中で明快にリズムを刻んでいます。
義満によって、一時的にせよ天龍寺に代わり京都五山の第一とされた相国寺も室町幕府の衰退と共に勢いを失っていきます。
しかし、この寺は人材に恵まれ、戦国末期から江戸初期に活躍した西笑承兌はまさに政僧といっても良いほど権力者に重用されました。
豊臣秀吉が西笑承兌のために伏見大光明寺再建を企てた時、その費用を諸武将に求めた「勧進」が展示されています。
幹事役は織田有楽斎。
徳川家康からはじまり、毛利輝元、上杉景勝、石田三成、真田昌幸などなど、数年後関ヶ原の戦いで東西にわかれて争う武将たちの花押がずらりと並んでいます。
面白かったのは西笑承兌が、徳川政権の下で朱印状発行を任されていたこと。
朱印状の実物が展示されています。
豊臣政権から徳川政権まで、禅僧としての知見だけでなく、実務的に飛び抜けて優れていたからこそ重用されたのでしょう。
近世、相国寺界隈と当時の文化サロンの様子等を伝える第一級史料、鳳林承章の『隔蓂記』の一部も展示。
最後に明治から昭和に管長をつとめた橋本独山の美的業績まで。まんべんなく寺の歴史を紹介しています。
承天閣美術館は現状、事前予約不要、体温チェックがあるのみです。