高嶺格「118の除夜の鐘 」

(ご注意: この作品は事前情報を得てから体験すると、ネタバレというレベルを超えて、作品との関係が変わってしまう可能性があります。
以下にはかなり事前情報が含まれます。というこのコメント自体がすでに事前情報の一種かもしれませんね。ごめんなさい。)

 

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2021年2月7日まで京都文化博物館で開催されている「Kyoto Art for Tomorrow 2021ー京都府新鋭選抜展ー」。
これに関係した特別出品として高嶺格のあるインスタレーションが無料公開されています。

 

旧日銀京都支店である文化博物館別館をほぼ占拠した巨大な暗室。
数分間のインスタレーション
体験できるのは一人だけです。
先客の体験が終わってから、順番に、暗室のなか、ポツンと置かれた一人用の椅子に案内されます。
椅子の周りを幾重にも螺旋状に巻かれた鉄パイプの巨大な管の構造体が取り囲んでいます。

次いでスタッフの方が複数の小さい金属の球体が入った袋を持ってくる。
「お好きな玉を選んでください」と。
適当に選んだ玉はパチンコ玉を少し大きくしたくらいのサイズですが、その割に結構質量を感じます。
その玉を高い位置にある鉄パイプチューブの穴へスタッフの方が落とします。
玉は鑑賞者の対面に口を開けているチューブの出口から出てくる仕組みと説明を受ける。

 

最初はゆっくりと、しかし着実に螺旋チューブの中を落ちていく玉。
チューブの接合部分を通過するとき鈍い音をたてていく。
「118の除夜の鐘」とはこの音のことか、などと思い巡らせていると、次第にとんでもない状況に自分が置かれていることに気がつくことになります。


ふらっと入ったミュージアムの暗室が、やんわりと、しかし、突然に地獄化する体験。

鑑賞者にとびきりの苦いスパイス体験を味合わせてくれるこのインスタレーション
それは会場に入る前、高嶺格によるなにやら宣言めいたメッセージを読むことから始まっています。
照明操作によってこのクラシカルな洋館が作家の企みに全面協力。
そして、「目に見えないある力」の恐怖。
最後に響く忌々しい人の声によって皮肉にも地獄から解放される。
その後味の悪さは特級です。

 

今からちょうど10年前、2011年1月から3月にかけて横浜美術館で大規模に開催された個展ではじめてこの作家を本格的に知りました。
"TOO FAR TOO SEE" -「とおくてよくみえない」展。
この展覧会の会期終わり頃に、東日本大震災
それまでも、どこか割り切れない、釈然としない感情のようなものを形にしてきたこの作家の作風は3.11後、さらにどんどん苦み走った冴えを帯びるようになっていると感じます。

日常に潜む落とし穴。
こういうクリシェをよく耳にしますが、この「118の除夜の鐘」は、文字通り、「本日の落とし穴」でした。

 

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