八木明「青白磁可変輪花香炉」

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先日(2021年2月7日)まで京都文化博物館で開催されていた「創立75周年記念 京都工芸美術作家協会展 ―煌・KIRAMEKI―」。

陶芸に数々の優品がみられました。

 

八木明は1955(昭和30)年の生まれですから今年60代後半に入る京都在住の陶芸家。

京都工芸美術作家協会には大ベテランも多いので、比較してしまうと「大家」というイメージはまだないのですが、一貫してモダンかつ格調ある陶芸語法を追求してきた人で、すでに充実した実績を持つ名工

好きな作家の一人です。

 

今回の記念展では彼の得意とする青白磁による香炉が展示されていました。

「可変輪花香炉」と名付けられています。

会場の展示では、おそらく設置制約からか、横に倒されていましたが、本来は支柱を使って垂直に立てて飾られる器物です。

 

面白かったのは倒されたことによってこの香炉の持つまるで巻貝のような有機的形状がより一層あらわになっていたこと。

白磁の気品を帯びた色彩と陰翳のグラデーションが垂直展示とは違った表情をつくりだしていました。

八木一夫の前衛的な造形よりも、祖父一艸の古典的な美意識が継承されていますが、この、どこか太古の生物を連想させるようなユニークなデザインは、父祖両者の流れが受け継がれつつも、まったく新しいセンスと技法が創造されているようにも感じます。

 

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八木明 青白磁可変輪花香炉

香炉は作家にとって最も自由に造形のイメージを膨らますことができる器の一つなのでしょう。

まず、茶碗のように手に持つ必要がありません。

皿や花器のように盛り付けられる食材も植物も想定されません。

といって、何も機能的要素をもたなければ、それは陶器というよりオブジェになってしまう。

 

香炉はあくまでも役割と機能をもった器です。

目的は目に見えない香りを漂わせるため、香木や線香を焚き付けること。

結果として、その機能を保持しつつも、香炉の形状は、手にもつことや何かをのせることから解放されて、実に多様性を帯びることになります。

 

その意味で最も有名な香炉は石川県立美術館にある野々村仁清の色絵雉香炉。

まったく自由な発想で造られたとみられる傑作。

でも、この天才的なデザインも、「置いて使う」という香炉の宿命的機能はしっかり達成しています。

 

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八木明の青白磁可変輪花香炉は、その「置く」という機能自体をも大胆に無視。

支えがなければおそらく香炉として使うことができない。

別に設た支柱などによってはじめて香炉として機能するのだと思います。

しかし、本来「香り」そのものが重力から解放され、浮遊して上へ上へと漂っていくその流れを想起した時、この花香炉のデザインが逆説的に十分機能していることに気付きます。

気品と新奇性が兼備された傑作と感じました。

 

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