「ボイスオーバー 回って遊ぶ声」展 (滋賀県立美術館)

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VOICE-OVER
リニューアル記念展 ボイスオーバー 回って遊ぶ声

 ■2021年9月18日〜11月14日
 ■滋賀県立美術館

 

今年6月、4年間もの休館を経てようやくリニューアルオープンした滋賀県立美術館。
館蔵品セレクションによるいわば拡大版常設展が開催されています。
リニューアル記念第1弾となった「Soft Territory」展は暑い時期に重なり、コロナもあったので鑑賞を見送り。
再開館後の初訪問は第2弾となるこの「VOICE-OVER」展となりました。

全面建て替えの計画から、予算制約の問題など文字通りの紆余曲折を経て、既存建築を活かした改築方針に転換した滋賀県美。
すっきり開放的にアレンジしなおされたエントランスなど、上手にリニューアルされているように感じます。
お金を使いすぎていまさらながらに困り果てているお隣の政令指定都市に比べれば、よほど賢い選択をされたのではないでしょうか。

建物の改装だけではなく、名前も変わりました。
かつての滋賀県立近代美術館から「近代」が取れています。
兵庫県立美術館も、2002年の移転に合わせて「近代」をとり外しました。
以前は新しい響きを持っていたであろう「近代」という言葉が、どうも窮屈で野暮ったい印象に変わってきているようです。
東京や京都では「近代」と入れないと東博や京博との違いが分かりにくくなるので、2館の近美が名前を変えることはないと思いますが、縮小均衡が進むこの国で、一県単位の美術館でみた場合、あえて「近代」とつける意味はもうないのかもしれません。
滋賀県美では「近代」を取り外した代わりに、時代を意識せず地元滋賀ゆかりの美術品や、アール・ブリュットを収集の柱に付け加えていく方針だそうです。

この美術館は、コールダーのオブジェが朱色を主張する中庭を囲むように、展示空間が大きく二つのブロックに分かれて配置され、通常は各エリア別々の展覧会が開催されています。
今回の企画では、2ブロックの全展示室を丸ごと一度に使っているので、ぐるりと一周美術館をめぐることができます。
タイトルにある「回って」という表現はこのことの喩えなのでしょう。
館蔵品の中からハイライトといえる名品を余裕を持って展示していて、とても贅沢な空間が広がっています。

 

地元ゆかりの小倉遊亀作品を集めたコーナーから始まりますが、最初のハイライトはそのすぐ隣に設けられた「いくつもの風景」と題された部屋に現れます。
傑作が並んでいます。

とりわけ速水御舟の「洛北修学院村」。
日本画でこれほど「青」を繊細に描き込んだ作品は他にないといえる名品中の名品です。
ガラスケース越しではなく、至近から鑑賞できる位置に展示されているので、御舟の超絶技巧をじっくり確認することができます。
よく見ると非常に小さく描かれた人物たちの姿ひとつひとつにしっかり表情がつけられていることにも気が付きます。
全体としての青の美しさが、細部の徹底した写実描写と両立している。
あらためて大変な名画であることを再認識しました。

その他、安田靫彦額田王卑弥呼といった有名作品や、志村ふくみによる色調ニュアンスの塊とも見える着物に加え、マチスやゴーキー、ブランクーシと盛りだくさん。

 

続く展示室ではやや雰囲気を整理して、この美術館の「近代」を回顧していきます。

久しぶりに加納光於の連作「波動説」を観ました。
中には、かつて若杉弘が録音した武満徹作品集のジャケットに使われていた懐かしい一枚もありました。

 

 

モーリス・ルイスやマーク・ロスコといった大作家の大作も見所でしたが、今回の展示中、最大のハイライトは田村友一郎が仕掛けたアンディ・ウォーホルの部屋でしょう。
「マリリン」と「電気椅子」。
非常に有名なこの作品が田村の手で並べ換えられ、その間に彼自身のミクストメディアが絡んでいます。
さらに展示室を進むと庭園を望む一角に休憩スペースが現れますが、ここにも田村のちょっとサディスティックな企てが仕組まれていました。
もうある種見慣れてしまっているウォーホルの作品が田村によって「遊ばれ」ることによって新しい様相を手に入れているようです。
なるほど「回って遊ぶ声」が確かに聞こえるようです。

 

「近代」を取り外した成果が早速あらわされている部屋もありました。
制咜迦と矜羯羅の二童子を従えた鎌倉時代不動明王像。
小ぶりですが図像的によくまとまった優品。
これになんと白髪一雄の「不動尊」がとり合わされています。
結構、激しくマッチングしていて驚きました。
滋賀は京都、奈良に次ぐ仏教美術の宝庫でもあります。
今回はこの不動明王だけでしたが、今後の「共演」にも期待が高まります。

 

その他ドットアーキテクツによる巨大な幼稚園の一室のような展示など、丸ごと現在の滋賀県美の有り様を鑑賞者にぶつけてくるような企画の面白さがありました。

瀬田から路線バスに乗り換えないといけないのでアクセスがちょっと面倒な上に、周囲にあるのは図書館だけというなんとも地味な「文化ゾーン」にあります。
しかし、その分、大混雑するようなことも滅多にないでしょう。
隣接する水量豊かな庭園ともども静かにたっぷり時間を過ごすことができる美術館だと思います。

 

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www.shigamuseum.jp