山県館の「ぬる湯」|山梨県 川浦温泉

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ぬる湯の極楽風呂。

山県館(やまがたかん)の魅力は全館の湯船に溢れる源泉そのものに尽きると思います。

数回リピートしている山梨、川浦温泉の一軒宿です。

yamagatakan.com

 

笛吹川上流域の山間にあり、西沢渓谷もすぐ近くという、まあまあな秘境エリアにあります。

でも東京からのアクセスはさほど面倒ではありません。

新宿からJR中央線に乗り塩山駅に着けば、宿の送迎マイクロバスが駅前に待機しています(要予約)。

塩山駅北口から20分ほどで宿の玄関前に到着します。

 

浴室は三つ(この他に有料の貸切風呂もあります)。

最も有名な湯船は笛吹川沿いの断崖絶壁に造られた露天「渓流雅之湯」。

信玄公岩風呂の別名を持ちます。

女性専用・男性専用・混浴と細かく時間割が決められているのでタイミングを考えながら入らなければならないところが面倒ですが、湯質とロケーションは抜群。

専用のエレベーター塔を下降し、さらにウッディーな階段を降りていくと3つのエリアに区切られた浴槽が姿を現します。

3つのエリア、それぞれ温度が違います。

しかしいずれのエリアも温度はぬるめで、一番熱めのエリアでも40度あるかないかといった具合。

源泉の温度自体がさほど高くないところを圧倒的な湯量でカバーし適温を実現しています。

加水・加温はなし。

100%の源泉掛け流しです。

無色透明な湯は肌触りが至極柔らかなことに加え、温度が低めなのでフワフワとした軽快な温泉を味わうことができます。

ほんのりと硫黄系の香りを感得しますが、匂いが身体につくほどのレベルでは全くありません。

とても品の良い名湯だと思います。

山梨県・塩山エリアには日帰り温泉施設として有名な「はやぶさ温泉」があります。

鯉のかたちをした湯口からドバドバと源泉が噴出する名物温泉。

山県館の湯はこれと同系統の泉質とみられます。

香りや味は「はやぶさ温泉」の方がやや強いと感じますが、山県館の柔和な湯の魅力も得難いものがあります。

 

さらに素晴らしいのはその景色。

笛吹川が削った谷の途中にへばりつくように造られていますから、周囲を遮るものがなく、辺りの山々を見渡すことができます。

なお、この「渓流雅之湯」のみ、22時から日の出までクローズとなります。

 

男女で入れ替わる2カ所の大浴場「せせらぎ之湯」と「薬師之湯」は24時間OK。

共に内風呂と露天で構成されていますが、「薬師之湯」の方がかなり広めに造られています。

熱めという点では「せせらぎ之湯」の内風呂が一番でしょうか。

それでも41,2度といった程度で、身体が真っ赤に色づくようなレベルではないと思います。

 

山県館では2種類の源泉を使用しています(浴室掲示の温泉分析表より)。

一つは「山県館一号」。

38.9度、pH9.3、毎分154リットル。

「山県館二号」は43.6度、pH9.6、毎分960リットル。

いずれも非常にアルカリ性度が高い温泉で、湯上がりの肌は汚れが毛穴のレベルで掃除されているかのよう。

二つの源泉を合わせると毎分1000リットルを超える湯量。

圧倒的です。

 

浴場にあるシャワーから出る湯も全て源泉。

飲泉も可能です。

とにかく豊富な湯量に恵まれている宿。

惜しげもなく湯船に投入される源泉の生々しさが実感できると思います。

 

加温はしないと宿は宣言していますから、熱めの湯が好きな方にはちょっと物足りないかもしれません。

真冬に来たことがないので感覚的にはわかりませんが、厳冬期の露天はちょっと辛いかなあとも想像します。

 

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玄関前には今上天皇が皇太子時代に宿泊したことを記念する立派な石碑が建てられています。

しかし、格式ばったところは全くありません。

フロント前のロビーには経営者の先祖とされる武田家家臣、山縣昌景にちなんだとみられる鎧の他に陶磁器などが置かれてはいますが、全体としては雑然としていておしゃれ感はありません。

といって秘湯民芸調に整えられているわけでもないので、独特のゆるい空気が漂っています。

サービスレベルも普通で、若い仲居さんはテキパキしているものの、やや荒々しいところもあったり。

以前は部屋出しだった記憶がありますが、現在は大広間を区切って食事処としているようです。

一般的な和食コースで、中には甲州牛の鉄板焼きなど高級っぽい食材も登場します。

ただ味付けは全体的に塩気や酸味がやや尖りすぎていて、残念ながら洗練されているとはいえないレベル。

とはいえ、食事やサービスが同レベルの箱根あたりの宿と比べれば価格はやや安めともいえます。

なお、自動販売機で売られているアルコール類の値段はかなり高めなので飲む人は要注意です。

 

山県館のたくさんある浴槽の中で、一番のお気に入りは大浴場「薬師之湯」に付属する露天、「笛吹権左三郎之湯」。

巨石を配した贅沢な湯船を太い銘木で支えられた屋根が格調高く囲っています。

たっぷりと源泉が流れ落ちる湯口とは別に、かなり高いところから湯を落とす打たせ湯が設置されています。

結構な圧力があり、肩や腰に落とすとマッサージ効果抜群。

シャワーからも源泉が出ると書きましたが、実はあまり勢いがありません。

その代わり、この打たせ湯を上り湯がわりに使えば爽快に湯浴みを締めくくることができます。

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