未来へつなぐ陶芸 - 伝統工芸のチカラ 展
■2022年1月15日〜3月21日
■パナソニック汐留美術館 (4月5日から金沢・国立工芸館へ巡回)
毎年秋の恒例行事である「日本伝統工芸展」を主催している公益社団法人 日本工芸会の中に「陶芸部会」があります。
さまざまな分野を持つ工芸ですが、陶芸分野に属する作家が、当然、最も日本工芸会の中では多いのだそうです。
今年は同部会が発足して50周年にあたり、これを記念した展覧会が企画され、1月の東京展を皮切りに来年9月の兵庫陶芸美術館展まで、全国各地を巡回します。
139作品。
かなりの点数です。
その中の多くが東京国立近代美術館の収蔵品で占められています。
竹橋にあった東近美の工芸館が「国立工芸館」として金沢に移転してからまもなく1年半。
この展覧会もかつてであれば竹橋で開催されていたかもしれません。
本展では移転後の国立工芸館ですでに展示された実績のある作品も出展されていました。
三代 徳田八十吉による「耀彩鉢 創生」は国立工芸館こけら落とし記念展でさっそくに披露されていた名品です。
他方、展覧会のアートワークに使われている松井康成の「練上嘯裂紋大壺」は、国立工芸館にもピンク系の同型作品がありますが、本展ではあえて茨城県陶芸美術館所蔵品をとりあげています。
このように、各地のミュージアムや個人が蔵する作品を織り混ぜてもいますから、単に国立工芸館所蔵品が金沢から東京に「里帰り」しているだけの展覧会では、もちろん、ありません。
日本工芸会自体は1955年に発足しています。
しかし本展では、組織が出来る前からすでに活躍していた巨匠の作品(板谷波山・六代清水六兵衛・楠部彌弌)を冒頭近くに展示し、まず敬意を表しています。
他方、展覧会の最後にはこの組織に加わっていない現代の気鋭作家作品(新里明士など)もとりあげていています。
「過去」においても「未来」においても、組織という枠組が伝統陶芸において必須ではないことをあらためて確認しているかのようです。
もっとも、本展は日本工芸会単独主催ではなく、国立工芸館が深く関与していますから、特定団体の「内輪色」「身内色」を薄める必要がある程度あったのかもしれません。
140点近い作品を、決して広いとはいえないパナソニック汐留美術館で展示しています。
作品陳列間隔も狭い。
しかし、不思議に窮屈な感じはさほど受けません。
作品の色調や形に配慮して明暗のバランスをとり、細かく照明光度を調整しているため、一つ一つの作品の存在感が的確に表現された展示形態とみえます。
いうまでもなく、パナソニック汐留美術館は総合電気メーカーの企業ミュージアムです。
室内照明のテクニックをデモンストレーションする場としての役割もこの美術館は担っています。
その実力は美術業界にも知られていて、照明手法について他のミュージアムから問い合わせを受けることも多いのだとか。
このあたりの事情は下記「美術展ナビ」の記事がとても参考になります。
日本工芸会という組織は「日本伝統工芸展」で毎年コンペをやっているだけのような印象がありますが、その目的は、単に品評会を行うことにあるのではなく、「無形文化財の保護育成を図る」点にあります。
このことは組織の定款第5条「目的」に明記されています。
貴重な技術・技法を作家たち個人の力のみに孤立させるのではなく、日本伝統工芸展などを通じて幅広く認知、共有させることでその価値を高め維持していく。
個々の作品というハードよりもソフトの力を重視した組織として日本工芸会は出発しています。
また、今回の展覧会で初めて知ったのですが、この組織発足のきっかけは、1950(昭和25)年に施行された「文化財保護法」にあるのだそうです。
絵画彫刻や建築のような有形文化財の保護だけではなく、この法律は伝統技術・技法など、属人的な要素まで保護の対象としています。
今となっては当然のように思えますが、施行当時、このような発想は世界に類をみない画期的なものでした。
逆にいえば、戦後間もない当時、すでに伝統の技法・技術が失われつつあるという実態があり、それを憂う危機意識が立法事実につながったともいえます。
半世紀以上におよぶ歴史をもつ陶芸部会を代表する傑作がそろえられています。
そのいずれもが、それぞれの作家固有の「語法」をもっていて、中にはタイトル説明を見なくても誰が作ったのか直感的にわかる作品が数多くみられると思います。
しかしその「語法」は単なる思いつきではなく、しっかりそれを裏付ける、これもその作家固有の「技法」があってはじめて成立していることにも気づかされます。
荒川豊蔵のように複数の作品が出展されているケースもありますが、基本的に一作家一作品。
選りすぐりの名品たちが伝統陶芸のアニバーサリーを寿いでいます。
一昨年、同じパナソニック汐留美術館から巡回がはじまった「和巧絶佳展」では、現代日本を代表する気鋭作家たちが技を競っていて、陶芸分野では新里明士と見附正康の充実ぶりが目立っていた記憶があります。
見附も新里もこの「伝統工芸のチカラ」展に出展していますが、彼らは日本工芸会には属していません。
「内輪色」を薄める理由があったのかもしれないものの、組織外の作家をも鷹揚に本展へ組み入れた企画姿勢はとても素晴らしいと思います。
しかし裏を返せば、新里や見附たちの存在を無視できなくなった日本工芸会の危機意識が垣間見えるようでもあります。
伝統の力のスリリングな変容を期待したいと思います。
これから金沢での展示がはじまります。
パナソニック汐留美術館が自慢していた展示照明が国立工芸館でどのように変化するのか、追っかけて観ても良いくらい非常に上質な展覧会と感じました。