現在、京都国立近代美術館では「サロン!雅と俗-京の大家と知られざる大坂画壇」と題された大規模な企画展が開催されています(2022年3月23日〜5月8日)。
木村蒹葭堂等を中心とした近世大坂の文人サロンが展覧会を構成する大きなテーマの一つとしてとりあげられています。
非常に面白く珍しい品が展示されていました。
上田秋成が自ら製作したという「赤泥涼炉」です。
秋成は煎茶にかなり入れ込んだ人ですが、自分で風炉まで作っていたとは知りませんでした。
木村蒹葭堂と秋成は昵懇の仲であり、今回一部展示されている「蒹葭堂日記」にも度々登場しています。
小さい風炉の側面には、植物を蟹が掴んでぶらさがっているような図像が確認できます。
会場で流されていた解説映像でこの草が「葦=葭(ヨシ)」、すなわち木村蒹葭堂であり、ぶらさがっている蟹は秋成自身をあらわしていることを知りました。
工芸品としての完成度は、横に並べて陳列されている初代清水六兵衛の「白泥涼炉」と比ぶべくもなく、やや歪みもみられます。
しかし、なんともいえない俳味が感じられてくる不思議。
秋成ファンとしてかなりバイアスがかかった眼で観てしまっていることもありますが、彼の手触りが伝わってくるような品であり、しばらく見入ってしまいました。
もともと煎茶の風炉は造りが脆く、古いものは残りにくいとされています。
来歴も含め、よくも継承されてきたものです。
展覧会に関係して製作されたとみられる上記YouTube動画は「大阪市立住まいのミュージアム」の「町屋再現茶室」で撮影されたもので、京近美の会場で流されている解説映像と同一です。
一茶庵の佃一輝宗主を囲んで、中谷伸生 関大名誉教授、橋爪節也 阪大教授、松浦清 大阪工大教授、明尾圭造 大阪商大准教授の四大人が、蕪村の竹図や清水六兵衛、上田秋成の風炉を肴に語らっています。
秋成の「赤泥涼炉」は5:54頃に登場します。
まさに現代の大阪文人サロンといった趣ですが、驚いたことに佃梓央 一茶庵嫡承が手前で急須をのせている炉は本展に出品されている初代清水六兵衛作の涼炉そのものです。
一輝宗主も「一瞬、秋成の炉を使いたいと思った」などと冗談なのか本気なのかわからないことを語りつつ、その「赤泥涼炉」を何気なく手の上で転がしています。
使ってなんぼ、掌で遊んで楽しまなければというさりげなさが素敵です。
大阪に生まれ、さんざんに遊び、ときには本居宣長に喧嘩をふっかけ、晩年は病を得ながら京で暮らし没した上田秋成こそ、京都と大阪を結ぶ代表的な文化人であり、まさにこの展覧会にふさわしい大家です。
しかし残念ながら美術館で展示する彼の作品となると、並み居る文人画家の作品を前に、限られてしまうかもしれません。
そこをこの「赤泥涼炉」一点できちっとクリア。
京近美の遊び心混じりの本気度が伝わる展示品でした。