デュエル|ジャック・リヴェット監督

 

日本劇場初公開作品を含みつつ、主に70年代の作品を特集しているミニシアター系企画、「ジャック・リヴェット映画祭」。

「メリー・ゴー・ラウンド」に続き、「デュエル」を観てみました。

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特撮的手法を一切無視して撮られたリヴェット風ファンタジー・ムーヴィー。

1976年の制作です。

 

タイトルは"Duelle"、つまり「決闘」です。

争う二人は月の娘と太陽の娘。

何をめぐって揉めているかといえば、彼女たちにとってその力の均衡を破るとみられる「石」。

霊力を秘めた「石」をめぐって、二人の女神めいた存在が下界の狂言回し的人物たちを振り回しつつ、争奪戦を繰り広げていきます。

こんなふうに文字にするとほとんどメルヘン、御伽噺のような内容なのですが、実際の映像は不穏な空気を伴ったサスペンスドラマの趣で一貫しています。

終始、虚実が軽やかに裏返るようなシーンが連続。

よくいわれる「リヴェットの魔法」が隅々にまで行き渡った不可思議、かつ、現実的な映画です。

 

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月の娘を演じているのはジュリエット・ベルト。

何度もキャラクターとファッションを劇的に入れ替えて登場し、本当に同一人物なのかと見紛うように変化していきます。

満月から新月まで、毎晩姿を変えていく「月」の表象が投影されているのかもしれません。

 

対照的にほとんどイメージを変えないのが太陽の娘、ビュル・オジエ

といっても、つば広ハットにステッキといういでたちは「太陽」というイメージにはとても直結せず、怪人的雰囲気を漂わせていて、相変わらず、魅せます。

この格好はどこかでみたことがあるなあと、記憶をたどっていったら、ダニエル・シュミットの「ラ・パロマ」(1974年)にいきあたりました。

あの怪奇幻想傑作映画に出演していたビュル・オジエも、つば広帽子にステッキ姿。
ペーター・カーン演じる主人公の母親役で妖しい美しさを醸し出していた姿を思い出しました。

「デュエル」におけるオジエの扮装は、彼女自身がひょっとすると「ラ・パロマ」を少しオマージュしているのではないか、そんな妄想が浮かんできます。

 

リヴェット自身、「ラ・パロマ」を意識していたのかもしれないと勘ぐりたくなるところもあります。

「石」に翻弄される気の毒にニヒルな男性ピエール(ジャン・バビレ)がバカラに興じるシーンは、どことなく、「ラ・パロマ」冒頭のキャバレー・シーンと同じ空気を感じます。
「月の娘」の取り付く島がないような表情は、同じくイングリット・カーフェンのそれを想起させるところがあるような、ないような。

もちろん、全体の作風はリヴェットとシュミット、全く違う、というか真逆ですけれど、70年代中盤、最も尖った映画を撮っていた監督同士、共通した感覚があったかもしれず、その媒介役としてビュル・オジエがいた、と仮定すると面白いつながりが見えてきそうでもあります。

 

ただ、妖しい美しさという点でみると、この映画ではオジエよりジュリエット・ベルトの方が一段と魅力的にみえます。

リヴェットはベルトにいろんな格好をさせたくてこの映画を撮っているのではないかと邪推してしまうほど。

いかにも大時代的な飾りをつけた帽子を被せたかと思ったら、メラメラと光る1920年代風男装麗人にすぐに変身させてしまう。
当時先端のオートクチュール風の衣装をふくめ、ベルトの七変化ぶりがこの映画の大きな見どころとなっています。

バビレのダンサーらしい、しなやかな身のこなし。
ちょっと中東系のエキゾティックな魅力をたたえたカラグーズの女神たちとの絡み。

作為感満点なのに不思議とその存在を納得してしまう「同時収録のピアニスト」。

一度観ただけでは気がつかないリヴェット・マジックが随所に散りばめられていそうです。

 

まだ一度観ただけの感想は、以上、です。