国立西洋美術館とフォルクヴァング美術館

国立西洋美術館リニューアルオープン記念
自然と人のダイアローグ フリードリヒ、モネ、ゴッホからリヒターまで

 ■2022年6月4日〜9月11日

 

約1年半、前庭の工事等によって閉館していた国立西洋美術館が今年4月に再オープンしました。

ル・コルビュジエによる当初の設計に立ち返り、前庭の姿をもとに戻すことが主な目的。
内部空間に目立った変更はありません。

再開後、最初の企画展が開催されています。

国立西洋美術館リニューアルオープン記念「自然と人のダイアローグ フリードリヒ、モネ、ゴッホからリヒターまで」

 

タイトルにある「ダイアローグ」には、展示作品の内容・構成自体ももちろん関係しているのですが、もう一つ、重要な意味が込められています。

西美所蔵品の軸となっている松方コレクションと、ドイツ、エッセンにあるフォルクヴァング美術館(Museum Folkwang)からの出展品による「対話」、です。

絵画の主題として「自然と人」はあまりにも汎用的なテーマであり、その「対話」はいわば当たり前のことでもありますから、タイトルにある「ダイアローグ」は、むしろ、この二つの美術館による「対話」とみた方がしっくりくる企画ではないかと思います。

 



松方コレクションとフォルクヴァング美術館には不思議な共通点があります。

松方幸次郎によって収集された西洋近代絵画のコレクションは、経済的事情や火災、戦争によってその多くが失われました。

一方、フォルクヴァング美術館の近代絵画も、ナチスによる収奪と破却によって甚大な被害を受けています。

両美術館の結びつきがどのような事情から強くなったのかはわかりませんが、このような、「打撃と復活」という共通の歴史が背景にあるのかもしれません。

もっとも、フォルクヴァング美術館コレクションの礎を築いた、カール・エルンスト・オストハウスは、松方幸次郎が美術品収集の真っ最中だった頃、1921年に世を去っています。
泉下の二人は、100年後、このようなコラボレーションが実現することなど思いもよらなかったことでしょう。

 

 

フォルクヴァング美術館の創設は1922年。
2022年は開館100周年にあたります。

これを記念して、工事閉館中だった国立西洋美術館から松方コレクションを代表する作品がエッセンに出張し、今年2月6日から5月15日まで、100周年特別展が開催されました。

本展はそのいわば東京版として企画されたもの。
ちょうどこちらもリニューアルオープンを迎えた西美。
再起動後の記念展としてもふさわしい内容になっています。

 

西美とフォルクヴァンクを結びつける象徴的な一枚があります。

シニャックによる「サン=トロペの港」。

1901年から2年にかけて制作されたこの作品は、程なくしてオストハウスのコレクションに加えられ、フォルクヴァング美術館の所蔵となります。

ところが、その後、この絵画はロンドンの画廊、マルボロー・ファインアートを経由し、1988年、国立西洋美術館が購入。
以後、この美術館のポスト印象主義を代表する一枚として親しまれてきました。

今年エッセンで開催された100周年記念展で「サン=トロペの港」は久しぶりに里帰りしています。

その答礼というわけでもないのでしょうが、フォルクヴァング所蔵のシニャック「ポン・デ・ザール」が、お役目を終えて上野に戻った「サン=トロペの港」と対話するように展示されていました。

シニャック「ポン・デ・ザール」

モダン・アートまで守備範囲に含めるフォルクヴァング美術館の100周年記念展では塩田千春や束芋まで展示されたそうです。

一方、上野展にガチガチのドイツ現代美術を持ち込むことはできなかったようで、一枚だけ、ゲルハルト・リヒターの「雲」がモネの「舟遊び」と対話のために出張していました。

先鋭的な作品の数は少ないものの、全体として見ると、ドイツ・ロマン派から表現主義あたりまで、非常に充実した作品群がセレクトされています。

中でもイヴ・タンギーの「恋人たち」に一番、惹かれました。

幻想の水中世界に漂う不定形な物体たち。
恐ろしく深く輝かしいその水の色。
眼がしばらく絵の前から離れなくなりました。
本展ではかなりの作品が写真撮影OKだったのですが、この「恋人たち」はNG。

下記にGoogle Arts&Cultureのリンクを貼っておきます。
ただ、この画像でも、タンギーが創造した「青」の極端な美しさは全く再現できていません。

artsandculture.google.com

 

その他、モンドリアンの鬱蒼とした抽象など、印象派以外の近代絵画にも素晴らしい作品がみられました。

そして、おそらくフォルクヴァング美術館コレクションの中でも最も有名な作品。

フリードリヒの「夕日の前に立つ女性」。

実際の作品は22X30.5センチと、それほど大きくはありません。

フリードリヒ「夕日の前に立つ女性」

タイトル通りこれは本当に夕暮れの情景なのか。
実は朝日なのではないか。
そもそもこの女性は何をしているのか。
さまざまな解釈があるようですが、この作品から間違いなく放たれているのは、その圧倒的な「肯定感」。
作品の小ささに反比例するように強烈な訴求力を持った画像です。

さすがにこの傑作と「対話」できるような西美のドイツ・ロマン主義絵画はなかったようで、フリードリヒの周りはフォルクヴァングから来たダールやシンケル、カールスの濃厚な油彩画が囲んでいました。

 

前述のリヒターやゴッホなど、一応客寄せ画家も登場していますが、半分以上がそもそも西美館蔵品ということもあってか、それほど混雑はしていませんでした(平日)。

 

リニューアル後初回の企画展として上質かつ上品なスタートを切ったと言えそうです。

 

カール・フリードリヒ・シンケル「ピヘルスヴェルダー近郊の風景」

ヨハン・クリスティアン・クラウゼン・ダール「ピルニッツ城の眺め」

カール・グスタフ・カールス「高き山々(フリードリヒにもとづく模写)」

クリスティアン・ロールフス「森の中」

 

フェルディナント・ホドラー「モンタナ湖から眺めたヴァイスホルン」

テオ・ファン・レイセルベルヘ「ブローニュ=シュル=メールの月光」

モンドリアンコンポジション X」

クレー「月の出(サンジェルマン界隈)」