調和にむかって:ル・コルビュジエ芸術の第二次マシン・エイジ
― 大成建設コレクションより
■2022年4月9日〜9月19日
■国立西洋美術館 新館1階第1展示室(常設展エリア内)
シャルル=エドゥアール・ジャンヌレ(Charles-Édouard Jeanneret あるいはCharles-Édouard Jeanneret-Gris)が、ル・コルビュジエ(Le Corbusier)という名前を使い出したのは1920年頃。
アメデエ・オザンファンと創刊した雑誌『エスプリ・ヌーヴォー』での執筆活動がきっかけでした。
彼はオザンファンと共にピュリスムを提唱し、この画風による多くの絵画を描いています。
しかし、画家としてのサインに「ル・コルビュジエ」と記すようになるのはやや遅れて1928年から。
「ジャンヌレ」のサインを捨てると同時に、厳格なピュリスム絵画からも脱却していくことになります。
現在、国立西洋美術館で特集展示されている大成建設蔵のル・コルビュジエ作品は全て、これ以降に創作されたもの。
「ピュリスムのジャンヌレ」ではありません。
大成建設は1990年から1991年にかけてル・コルビュジエの絵画作品等を大量に購入。
1992年、本社がある新宿センタービル内に「ギャルリー・タイセイ」を開設しています。
しかしこの展示施設は、2009年に横浜へ移設後、2016年に休館。
現在はバーチャル・ギャラリーとしてWEB上での作品紹介というスタイルをとっています。
大成建設コレクションは素描や写真などを中心に450点以上を数えます。
休館中の現在、その内の226点が国立西洋美術館に寄託されていて、本展はその中から大型の油彩や素描をピックアップして構成。
「ピュリスム以降の画家ル・コルビュジエ」を特集した企画です。
西美は2019年、「ル・コルビュジエ 絵画から建築へ ピュリスムの時代」という大規模な企画展を開催しています。
この展覧会ではオザンファンの作品と共にル・コルビュジエ財団などから出展された絵画が大半を占めていました。
今回の特集展示は、いわば、この2019年展の小さな続編という意味合いも帯びているようです。
「画家ル・コルビュジエ」の誕生を象徴する一枚が、1928年に描かれた「レア」です。
ここにはピュリスム時代のモチーフだったコップやボトルといった無機質なものに代わり、貝殻や骨らしい物体が描かれ、厳しく形態そのものに迫ったピュリスムとは違う、グニャグニャ感が前面化されています。
その他の作品もそうなのですが、一見してピカソにシュルレアリスムを振りかけ、さらに平面化したような雰囲気がみられます。
絵画としてみた場合、建築家ル・コルビュジエの作品に比べるとさほど斬新な魅力があるとは、正直、感じられない面もあります。
しかし、よくみてみると、何の関係もなさそうなそれぞれのモチーフが、実はこれ以上そこにおさまる形態としてあり得ないような絶妙な配置で構成されていることに気が付くと思います。
一見平面的なのですが、次第に「建築」につながるエキスのようなものが滲み出てくる感覚。
有機的な「生命」を感じさせるような要素を厳格な建築語法に染み込ませる手法。
この建築家後期の作品と通底するものが感じられました。
そもそもこの国立西洋美術館自体、コルビュジエが厳格なピュリスムを放棄してからかなり経った晩年の作品です(1959年竣工 施工は清水建設)。
外壁は、どことなく苔の色がうっすらと反映されているような有機的造形を感じさせ、この建築家前期の白い軽快さとは違う、「重々しくならない重厚感」が魅力的。
建設当初の前庭の姿を取り戻した現在の姿と響きあう企画展示でした。