京都国立近代美術館4階のコレクション展コーナーの一室で、三尾公三(1923-2000)のミニ特集が組まれています(2022年度第3回コレクション展 7月22日〜10月2日)。
三尾が、現在同館で特別展が開催されている清水九兵衛(1922-2006)と親交があったことにちなんでの企画だそうです。
名古屋に生まれた三尾公三ですが、1942(昭和17)年、中学卒業後は京都に移り、京都市立絵画専門学校、つまり現在の京都市立芸術大学に入学。
以後は主に京都を拠点に活動を続けた人です。
清水九兵衞(七代清水六兵衛)も三尾と同じく名古屋で生まれ育ち、清水家の養嗣子になった後は京都で暮らしていますから、仲良くなるのも頷けます。
目まぐるしく手法を変えた人として知られています。
まず学んだのは日本画で、当時、京都市立絵画専門学校で教鞭をとっていた池田遙邨、上村松篁、山口華楊といった錚々たる大家に師事することになります。
しかし、卒業後はきっぱり日本画と縁を絶ってしまい洋画にシフト。
ところが、洋画家への道も1960年代に放棄しています。
陶芸と彫刻の世界を行き来した清水九兵衞とこんなところも共通しているようです。
三尾が過去を捨て去り、新たに取り組んだのがエアブラシによる描画技法です。
リアルさとシュールさを溶融させたような独特の画風。
三尾公三といえば、これ以降のイメージしかありません。
(見たくても日本画時代、洋画時代の作品は画家により大半が処分されています)
写真週刊誌「FOCUS」の表紙デザインを長く担当したことでも有名なアーティスト。
「FOCUS」の創刊には新潮社の大物、斎藤十一が深く関与していました。
斎藤は「藝術新潮」の創刊を担当したことでも知られるカリスマ編集者ですから、「FOCUS」での三尾の起用にも少なからず影響を及ぼしているような気がします。
なお斎藤も三尾も、奇しくも同じ2000年にこの世を去っています。
京近美は三尾公三の作品を7点所蔵していて、今回の特集ではその全てが公開されています。
最も古い作品は1972(昭和47)年に発表され、直ちに購入された《Fiction Space M1》と《Fiction Space M2》の連作。
マグリットを思わせるような混じり気のない青空に外国人男女のポートレートが組み合わされた大型の板絵。
この連作や《渚にて》(1975)などは、「FOCUS」の表紙にそのまま使われても不思議ではない、いかにも三尾らしい作品です。
「FOCUS」は週刊誌ですから、膨大な数の表紙デザインをもの凄い速さで創作しなければならなかったはずですが、三尾にはおそらく1970年代から創り溜めたイメージがたくさんストックされていたのでしょう。
それを上手く表紙デザインに転用したと思われます。
かつての日本画や洋画は自ら徹底的に処分したのに、エアブラシ作品は逆に良い意味で「使いまわす」ことを許容していたことになります。
不思議に皮肉めいた因縁を感じます。
後年、90年代に入ってから制作された2作品《ヴェネツィアの女》(1995)、《北白川幻想》(1996)は、2004(平成16)年、京近美に寄贈されたもの。
超現実的な雰囲気はあるものの、図像に表された具体的な形象のリアリズムはむしろ徹底化されていて、晩年の三尾による衰えないテクニックと詩情性を感じることができると思います。
前述の通り、三尾は日本画を完全に捨て去っていますが、エアブラシという新技術を使いながらも、その透明感を帯びた写実表現の根底には、最初に学んだ京都画壇の巨匠たちがもっていたセンスと技が実はこっそり継承されているようにも感じます。
あらためてまとめて京近美の三尾コレクションを観てそんな印象をもちました。
来年、2023年は三尾公三生誕100年です。
ここ数年、まとまった回顧展などは開かれていないようですが、「写実絵画」が注目されている昨今、あらためて見直しても良いアーティストかもしれません。