金剛寺の聖剣と日月四季山水図屏風

 

特別展 河内長野の霊地 観心寺金剛寺真言密教南朝の遺産─

 ■2022年7月30日~9月11日
 ■京都国立博物館

 

直線距離でいえば、河内長野は京都より奈良の方が当然に近いのですが、この地の二大寺院である檜尾山観心寺、天野山金剛寺ともに、京都国立博物館と親密な関係を維持してきました。

両寺とも実質的に平安時代に経営を整え、真言密教系の遺産を多く受け継いでいることから、文化財研究上、奈良博よりも京博に強みがあったということかもしれません。
国宝を含む数点の寺宝が京博に寄託され、機会は少ないもののときどき陳列されています。

 

2016年から19年にかけ、二つの寺院に伝来した文化財の全量調査が京博によって実施されました。

本展はその成果をふまえての企画展です。

特別展 河内長野の霊地 観心寺と金剛寺─真言密教と南朝の遺産─ - 京都国立博物館

 

平成知新館の1,2階が会場となっています。

通常、京博の特別展では3フロアすべてが使用されますが、今回、3階は実質常設展示が継続されているので、規模としては普段の企画展の7割程度といったところでしょうか。

また前後期(前期:7月30日〜8月21日 / 後期:8月23日〜9月11日)の設定があるものの、大半の作品が通期展示です。

密教法具の一部や南朝関連の文書類に展示替えがわずかにありますが、よほどのマニアでもない限り、その入れ替えだけを理由に複数回鑑賞する必要はなさそうです。

 

現在、観心寺高野山金剛寺御室仁和寺と系統が分かれるものの、共に真言宗の大寺院であり、前者は橘嘉智子、後者は八条院と、女性の貴顕が、一時、強力な後ろ盾となった点で共通しています。

ただ残された文化財の傾向は両者でやや違いがあり、大まかにいって、観心寺は仏像彫刻、金剛寺は絵画と工芸に優品が多いようです。

観心寺といえば、国宝如意輪観音菩薩坐像がとりわけ有名ですが、特級の秘仏なので当然、出展はされていません。
かわりに美術院が7年近い歳月をかけて製作した模造(京博蔵)が展示されています。
これはこれで大変な力作で、見応え十分ではあります。

キービジュアルの一つとしてポスターなどに写されている「伝宝生如来坐像(弥勒菩薩)」をはじめ、「仏眼仏母」像など、平安初期、9世紀の傑作が観心寺宝物館から出張しています。

 

今や京博の「本尊」ともいうべき国宝、安祥寺五智如来坐像のうち、大日如来が今回も1階中央に鎮座し、観心寺の二菩薩像がその左側に設置されています。

藤原順子によって安祥寺が建立された時期も9世紀ですから、たしかに観心寺像と様式が近く、並置されても違和感がありません。

定朝様がはじまる前なのに、観心寺像も安祥寺像も、マッスを強烈に主張する弘仁期彫像とは別種の自然な気品を備えていて、思わず手を合わせたくなるような崇高美。
素晴らしいコラボレーションがみられました。

 

一方の金剛寺

京博が「国宝中の国宝」と口を極めて絶賛する無銘の「剣」。
この博物館に金剛寺が寄託している名品です。

刀身は平安時代、10世紀に鍛造されたもの。
三鈷杵型の柄は鎌倉時代に拵えられています。

太刀でも刀でもない、これは全く「斬る」という物理的な行為を想定していない、100%宗教的目的で鍛えられた刀です。

輝く鋼から放たれる「工芸」としての神々しい圧倒的美観。

平な面が広く取られた特徴的な「両切刃造」というスタイルをもつ刀はこの一口を含めて5例しか確認されていないのだそうです。

「聖剣」という言い方がこれほどふさわしい剣は他にないかもしれません。

 

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そして、なんともミステリアスな絵画、「日月四季山水図屏風」。

鮮やかな緑青で描かれた山々はとんがり帽子のように異様な角度をもち、奇妙に湾曲する松をしたがえています。

その下にはうねりまくりながら波打つ水流。

上空には琳派を思わせるような徹底的に様式化された金銀の日月。

デフォルメが激しい雪山が左隻に強烈な白をはめ込んでいます。

室町期の作品とされていますが、波の形状などは狩野派のごく初期を感じさせます。

何のために描かれたのか。
仏教儀式に関係するなど、諸説あるようです。

しかし、様式的に時空を超越するようなこの作品は、どのように用いられようと、その場の空気を一変させるアヴァンギャルドな迫力をもっていて、その力は現代でも衰えていません。

屏風の前には長椅子が置かれています。

地味な企画なのでさほど混雑していない中、じっくり座して鑑賞することができました。

 

その他、楠木一族が金剛寺に奉納したという武具「腹巻」のセットも圧巻。

大鎧に代わり、機能性を重んじた軽装ですが、結構色合いに工夫が見られ、おしゃれ感も伝わってきました。

狩野山楽や伊織の絵画など、悉皆調査によって明らかにされた作品も披露されています。

 

次回の大規模展である「茶の湯」展までの間奏曲的な扱いで、期間も1ヶ月半に満たない企画展ですが、濃密な内容に仕上がっていると思います。

 

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