京都dddギャラリー第233回企画展
FormSWISS(フォーム・スイス)
■2022年10月05日~11月20日
デザインスタジオ「&Form」を率いる丸山新が企画プロデュースした、現代スイスのビジュアルコミュニケーションデザイン展です(無料)。
2020年秋に千駄ヶ谷のTHINK OF THINGS他で開催され、昨年はデザイン・クリエイティブセンター神戸にも巡回しました。
京都dddギャラリーは、今年の夏、太秦天神川から四条烏丸に引っ越し。
やや場末感があった大日本印刷京都工場内のスペースから市内の真ん中に移転してきたことになります。
本展は移転後第2回目となる企画。
決して広いとはいえないdddギャラリーの壁と床、その全面をシンプルに使って、15の個人、グループ、企業、大学がてがけたポスター、写真などが所狭しと紹介されています。
スイスといえば、近代タイポグラフィーの一大流派を形作った文字デザイン大国です。
現在でも実にさまざまなクリエイターたちが活躍している様子がストレートに伝わってくる好企画だと思います。
中でもひときわ目を引いたのが、カラフルに塗装されたスケートボードの一群(ローラーは当然に取り外されています)。
タイプ・デザインのカンパニー、Swiss Typefaces (スイス・タイプフェイシズ)による作品です。
2006年の設立と比較的新しい企業。
スケボーでタイポグラフィーを主張するところに遊び心を感じます。
ただ、ここに表示されている名前は、文字デザインを語る上で欠くことことができないマエストロたちのもの。
この若い企業が「伝統」を実はかなりリスペクトしていることが暗示されています。
2021年1月から4月にかけ、東京都庭園美術館で開催された「20世紀のポスター」展は、実質、スイスにおけるコミュニケーションデザインの歴史を紐解くような内容で、とても見応えがありました。
その展覧会で紹介されていたデザイナーたちの名前もスケボーに表示されています。
ヨゼフ・ミューラー=ブロックマン(Josef Müller-Brockmann, 1914-1996)は、戦後、タイポグラフィーにおける「スイス派」を牽引した大家。
1950年代、チューリヒを中心に、トーンハレによる音楽会のポスターなどで注目を集めます。
「20世紀のポスター」展では、シューリヒトの指揮、シュナイダーハンのソロという豪華なベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲がとりあげられた演奏会ポスターなど、現在でも通用するようなスタイリッシュなデザインがたっぷり紹介されていました。
1960年、東京で開催され、日本デザイン史の画期となった世界デザイン会議にも斯界を代表して登壇するなど、この国とも縁がある巨人でした。
スケボーに記されたタイポグラフィーもミュラー=ブロックマンを意識した洗練されたものが使われています。
マックス・ビル(Max Bill ,1908-1994)の名前もあります。
ビルは「文字」の人というよりバウハウスの流れを汲む総合デザイナーといった方がふさわしいのですが、1940年代のポスターなどには、その硬質な無駄のない字体に独特の力強さを感じさせ、彼のプロダクトとの共通点がみられると思います。
カール・ゲルストナー(Karl Gerstner ,1930-2017)はつい最近まで存命していました。
広告代理店を設立し自らのデザインを積極的にマーケティングした人物。
しかし、会社から離れるとタイポグラフィーに専念したのだそうです。
「20世紀のポスター」展では1950年代に製作された政党のポスターが紹介されていましたが、日本ではちょっと考えられないおしゃれさと訴求力が兼備された一枚でした。
スケボーに記された他の名前も偉人ばかり。
スイス人に限定されているわけではありません。
グーテンベルクに、ルドルフ・コッホ、パウル・レナー(Futura フォントの開発者)、そしてペーター・ベーレンス。
建築、インダストリアルデザインの方面でもお馴染みのベーレンスは、ちょっとユーゲントシュティールの残照を感じさせるような独特のタイポグラフィーを生み出していて、一部ではその独特の「クセ」を取り入れた新しいフォントも開発されているようです。
タイポグラフィック・スケボーの他にも、ヤヌッチ・スミスというデザインスタジオが手がけたロカルノ映画祭関連の印刷物など、興味深い成果物が散りばめられていました。