仲谷昇の「スクリーン・テスト」|ウォーホル展から

 

 

アンディ・ウォーホル・キョウト / ANDY WARHOL KYOTO

■2022年9月17日~2023年2月12日
京都市京セラ美術館 (東山キューブ)

9月中旬から岡崎ではじまったウォーホル展。

盛況です。

kyotocity-kyocera.museum

 

平日の午前中に訪れてみました。

小型作品の前には若干密集ゾーンができていたりしましたが、全体的にストレスを感じるほどの混雑はありませんでした。

 

他地域への巡回はありません。

京都市美術館単館で開催する今年度後半の目玉企画。

京都駅前をはじめ、市内のあちらこちらに今回のキービジュアルである「三つのマリリン」が展開され、それなりに集客効果を発揮しているようです。

とはいえ、来年の2月までとかなり長めの期間がとられているので、会期終盤近くあたりを除けば普通に鑑賞できるのではないでしょうか。

 

 

これだけの規模で開催されるアンディ・ウォーホル(1928-1987)回顧展は、2014年の森美術館展(「アンディ・ウォーホル展:永遠の15分」)以来かと思われます。

もともとは2020年の9月から1月にかけて開催される予定だった企画展。

コロナで先送りにされていましたが2年余りの時間を経てようやく開催に至りました。

延期の損失を取り戻すかのように会期は当初計画の3ヶ月間から4ヶ月間に拡大されています。

 

ほんの数センチ四方しかないポラロイド写真から超巨大な壁面作品、初期から最晩年作、代表作から珍しい日本初公開作まで、多彩な作品が手際よく展示されていました。

全てピッツバーグにあるアンディ・ウォーホル美術館の所蔵品で構成されています。

収集魔だったというこのアーティストが日本を訪れた時に持ち帰った箱根ホテルのリーフレットなども展示。

1956年、京都滞在時に描いた清水寺や舞妓のスケッチが本展に因んで紹介されています。

ただ、特に京都とウォーホルのつながりを全編にわたって強調している企画ではありません。

むしろ最晩年に描かれた巨大な「最後の晩餐」など、「スープ缶」以外の珍しい大作が見ものといえる展覧会です。

アンディ・ウォーホル「最後の晩餐」(部分)

 

「エンパイア」などお馴染みの映像作品も紹介されています。

「スクリーン・テスト」は、1964年から66年にかけ、ウォーホルが拠点としていたスタジオ、NYの「シルバー・ファクトリー」で撮影されたポートレート映像群。

今回の展示では大型スクリーンの前に椅子が並べられていて、じっくり鑑賞することができました。

5人の人物を同時配置して上映するスタイルを採用。

左上にボブ・ディラン、右上にサルヴァドール・ダリ、左下にイーディ・セジウィック、右下に仲谷昇、真ん中に岸田今日子の顔が映し出されています。

 


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ディランはサングラスをかけて椅子に座っている全身像なのでその表情はほとんどわかりません。

ただあまり機嫌は良くなさそうです。

 

ダリは、ときに自慢の口髭を見せびらかすように顔の角度を自在に変えてポーズをとり続けています。

 

ウォーホルとディランに翻弄されて悲劇的な最期を遂げてしまった女性、イーディは正面を向き、虚なのか本気なのかよくわからない独特の表情で大きな目を開閉。

 

中央の岸田今日子は、ときおり笑顔を織り交ぜるなど多彩にポーズをとっていて、ちょっと楽しそうにもみえます。

 

さて、問題は、仲谷昇です。

1964年、当時奥さんだった岸田今日子と一緒にウォーホルのスタジオを訪れたのでしょう。

この俳優は1929年生まれですから、30歳代半ばのポートレート画像ということになります。

撮影時間3分のフィルムにスローモーションをかけた4.5分程度の映像。

正面を向いたまま、仲谷昇の表情は、この間、ほとんど変わりません。

まばたきすら数回確認できるのみです。

まるで静止画に近いような一人の男の「スクリーン・テスト」。

しかし、不思議なことに、ここに映された5人の中で、最もその内面が画像に滲みでているようにも見えてきます。

繊細な青年哲学者のような美しさ。

後年、彼がテレビや映画で見せた韜晦を含んだ知的な重厚さともちょっと違う、奇妙な静けさが漂う神秘的ポートレートです。

「スクリーン・テスト」と題されているわけですから、当然、「監督」であるウォーホルと対峙し、彼の具体的な指示を受けていると想像することも可能です。

どういうやりとりを仲谷とウォーホルはしていたのか、とてもミステリアスな関係が、一時的に成立していたかのような映像。

ひょっとすると、「エンパイア」で撮られたあのビルと同じような佇まいを、アーティストと俳優は意識していたのかも知れません。

 

 


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