重信会館のGoh Uozumi|ARTISTS' FAIR KYOTO 2023

 

東本願寺周辺を主会場の一つとした今年のARTISTS' FAIR KYOTO 2023。

 

Yottaによる巨大コケシ『花子』が寝そべっている東本願寺御影堂門前と、烏丸通を挟んで、アドバイザリー・ボード展が開催されている渉成園(枳殻邸)をつなぐ小路、中珠数屋町通に、異様な存在感を放って建つ「重信会館」があります。

 

ここを舞台に、昨年のARTISTS' FAIR KYOTO 2022で「マイナビART AWARD」最優秀賞を獲得したアーティスト、Goh Uozumi の個展が開催されています(2023年3月4日〜3月12日)。

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Yottaの『花子』ばかりが注目を集めているようですけれど、そこから歩いて2,3分、こちら重信会館での企画もとても刺激的な内容となっていて楽しめると思います。

なお、コケシ同様、無料で鑑賞可能です。

 

建物1階の空間をすべて使って映像インスタレーション『MK.God』が展開されています。

照明が一切ない暗黒の中、前面に設置された巨大なスクリーン上に、目まぐるしく、ときに激しい明滅を伴いながら、脳が処理する間もなく多彩に変化し続ける情報量過多の映像。

ハニカム構造を思わせる枠が仕込まれた特異な画面が使用されています。

4機のプロジェクターと2台のスーピーカーが、非常に高解像度の映像と不穏なノイズを生成。

正六角形のフレームは、昆虫がもっている複眼を模しているようにもみえます。

映像は32ビート級以上のリズムで切り替わっていく。

これは人類とは違ったとてつもなく速い「脈拍」で生き、事物を捕捉している昆虫的主体が幻視している映像かもしれない、などと妄想していると、突然、世界各地の硬貨が写し出されたりします。

秒単位以下の一瞬でディールされていく、虚実が混在した「現代資本」の流動性、そのイメージを「複眼」で捉えたということでしょうか。

 

超速ビートで進行する映像に対し、流されている音響は中低域を中心とした単調なノイズです。

視覚の心拍と聴覚の心拍が微妙にずらされていき、快-不快の境界も一定しません。

実態としては数分の短い作品ですが、ときに長いようにも、短いようにも感じられます。

 

 

このところ、どちらかというと遅めのリズムで制作された、特に女性映像作家が創造するゆったりとした作品を観る機会が多かったので、久しぶりにカチカチと尖ったGoh Uozumiのアートに接し、随分と新鮮な感覚を得ました。

ただ、音響についてはもっと大胆にボリュームアップしても良かったのではないかなあ、とも感じます。

映像の先鋭さを受け止めるどっしりとした響きがもっと獲得できていれば、さらに鑑賞者を「違った脈拍の主体」に誘う面白い効果が期待できたのではないか、とも思いました。

おそらく防音がしっかりしていない古い建物なので、再生音量に制約があったのかもしれませんけれども。

 

いずれにしても、きちんと「賞」を授与したアーティストに継続して展示の機会を設けるその企画性は素晴らしいと思います。

それに応えたGoh Uozumiの緻密な仕事ぶりにも感銘を受けました。

 

重信会館の玄関(フェアが始まる前に撮影)

 

さて、会場となっている「重信会館」です。

何度か前を通ったことがあるのですが、アイビーがべったりと全体にからまるその姿に「ずいぶん味のある廃墟だなあ」と感じていました。

これはとても失礼な思い込みで、実はこうしたイベントに使用される、ちゃんと現役の建物だったわけです。

戦前に建てられた市内に点在する小学校建築などと共通した装飾が印象的。

どういう由来の建物なのか、アーティスツフェア京都のスタッフの方に聞いてみたのですが、要領を得ないご様子でした。

 

ところで、この建物が面している「中珠数屋町通」は、東山に近い豊国神社正門から西に伸びる「正面通」の一区画にあたります。

あえてここだけ通りの名前が変わっていることからもわかるように、東本願寺から渉成園にかけてのこの一帯は、念珠や法衣などを扱う仏具店や門徒衆御用達の宿屋が連なる、いわば「お東さん」に密着した門前町です。

おそらくこの重信会館も真宗大谷派に何か縁のある建物なのかもしれません。

 

重信会館内の水回り設備

さて、中珠数屋町通が、渉成園を挟んでさらに東、河原町通を跨ぐとまた通りの名称が「正面通」に戻ります。

その正面通が鴨川を渡るところ、「正面橋」の西詰近辺に、最近、安藤忠雄の手でリニューアルされたというホテル「丸福樓」があります。

ここは、かつて任天堂の旧本社として使われていた建物です。

1930(昭和5)年頃の建築。

重信会館と、そのご近所ともいえるエリアに存するこの建物、どこか雰囲気が似ています。

昭和初期、当時流行していたアールデコ調のデザインセンスが二つの建物の共通要素になっているとすると、重信会館の建設時期もおそらくほぼ同時期と類推することもできそうです。

今回、重信会館の内部に初めて入ることができましたが、大規模な修繕などは施されていないようで、かつての状況がほぼ維持されているようにもみえました。

執拗に絡みつく蔦の雰囲気といい、ホラーやラノベ実写系の映画等に登場しそうな、例えば怪しげな「探偵事務所」の入居するビルみたいな設定としてロケにも使えるのではないでしょうか。

味わい深い建築物です。

 

ホテル 丸福樓(任天堂旧本社)

 

重信会館