南禅寺と永観堂のちょうど中間、東山高校の西あたりに、野村財閥の創業者である野村徳七(得庵 1878-1945)が有していた広大なお屋敷、「碧雲荘」があります。
得庵のコレクションを中心に、季節毎、主に茶の湯関連の企画展を催している野村美術館もその敷地の一部だったのでしょう。
現在、開館40周年の記念展が開催され、自慢の優品が披露されています。
(開館四十周年記念名品展「野村得庵のまなざし」前期:3月4日~ 4月23日 後期:4月29日~6月11日)
美術館の北側、永観堂橋から西に向かって、一本のとても狭い小道が伸びています。
南禅寺の奥にある琵琶湖疏水系の施設、扇ダムからひかれた用水路に沿って造成された歩道です。
用水路は最終的に琵琶湖疏水記念館横に行きつき、動物園前で岡崎の疏水に合流しています。
東山の雨水をたっぷり含みつつ、勢いよく流れる琵琶湖の水です。
この「扇ダム用水路」に沿って南側に見事な桜が植えられています。
桜がある土地自体は、南禅寺の塔頭、慈氏院あるいは聴松院に属しているものと思われます。
でも、まるで水路沿いを歩く人のために植えられているように、境内の外、碧雲荘側に向かって枝を伸ばし、この時期、ごく短い距離ではありますが、幽玄な景色をこっそりつくりだします。
南禅寺周辺は市内屈指ともいえる桜の人気スポット。
でも、レンタル和装の人々など、賑やかな方々は、たいてい、インクラインから南禅寺や水路閣の方へ流れていってくれます。
ダートで狭いこの道をわざわざ選んで歩く人はさほど多くはないと思います。
雨上がり、花曇りのこの日、実際、誰もいませんでした(2023年3月下旬)。
さて、扇ダム用水路の途中を北側に曲がると、そこは碧雲荘前、向かいに建つ「清流亭」(所有は大末)との間を南北に貫通する道路となっています。
ここも桜の名所として知られています。
清流亭(非公開)側に鮮やかなピンクを主張する枝垂れ桜が植えられ、碧雲荘の桜と共演。
周囲は低層和風建築で占められていて、電柱や電線すらありませんから、市内とは思えない、別世界のような光景が広がっています。
碧雲荘自体は野村ホールディングス系企業の管理となっていて、ここも一般には公開されていませんが、野村美術館から庭園を周るこの一帯は非常に美しく整えられているので、ぶらつくだけでも十分、春の気分を満喫できるのではないでしょうか。
たとえば、泉屋博古館から野村美術館まで。
鹿ケ谷通の途中から裏手をまわって桜見物という徘徊コース。
案外、素敵かもしれません。
やや遠回りになるし、道もわかりにくいのですけれど、グループ観光客などは滅多に入って来ませんから、静かに両館をハシゴできると思います。