企画展 光陰礼讃ー近代日本最初の洋画コレクション
■2023年3月14日〜5月21日
■泉屋博古館
昨年、2022年春、リニュアールし名称も改めた六本木一丁目の「泉屋博古館東京」(旧名「泉屋博古館分館」)。
この展覧会は、その再開記念として開催された「光陰礼賛」展(2022年5月21日〜7月31日)の巡回です。
泉屋博古館は、京都がいわば「本店」ですから、支店である東京からの「巡回」という言い方もおかしいのですが、タイトルやアートワークの仕様までかなりの部分が共通していますから、こう表現するしかありません。
いずれにせよ、この数年、鹿ケ谷では専ら日本・東洋美術関連の特別展が開かれていたように記憶しますので、久しぶりの洋画系企画ということになると思います。
泉屋博古館 <京都・鹿ヶ谷> | SEN-OKU HAKUKOKAN MUSEUM
規模は六本木での展示に比べ、ややコンパクトになっています。
東京展では、住友友純の長男住友寛一や、住友友成の集めた洋画も紹介されていましたが、京都展では、第十五代住友吉左衛門友純、春翠(1865-1926)のコレクションにほぼ特化。
実質的に、春翠収集品による、今はなき「住友家須磨別邸を飾った洋画展」と言い換えても良い内容となっています。
春翠は、中国古代青銅器を中心に茶の湯や日本画と、とても多方面からアートにアプローチした人です。
西洋絵画コレクションは、他分野に比べるとかなり規模は小さくなりますが、それでも彼が活動した時代を考えれば、非常に先駆的なものとされています。
惜しまれるのは、その多くが、須磨にあった住友家の別邸に飾られていたため、1945年、神戸への空襲によって焼失してしまったこと。
中にはラファエル・コランや黒田清輝の作品も含まれていて、特に後者の「朝妝(ちょうしょう)」は、その裸体表現をめぐってスキャンダルともいえる大論争を巻き起こしたことでも有名です。
今ではモノクロの写真でしか確認することができない日本美術史に名を残すこの問題作を、春翠は鷹揚に買い取り、須磨別邸の化粧室に飾っていたそうです。
展覧会では、須磨別邸の精密な模型や、どの部屋にどんな絵画が飾られていたかを図示する展示もあり、往時の「春翠西洋画館」ともいうべき様子をイメージできるような工夫がなされていました。
それにしても、大変な名画とみられる作品の数々が、瀟洒な館と共に焼け落ちてしまったことに、あらためて慄然とします。
茶道具や日本画の収集に関しては、独特の華麗な審美眼を発揮した春翠ですが、西洋画についてみると、良い意味で、雑多という印象を受けます。
モネを非常に早い時期に入手した一方で、ジャン=ポール・ローランスによる歴史画の大作を購入するなど、流派や系統にこだわる姿勢はほとんど見られません。
ただ、考えてみると、春翠が洋画のコレクションを本格化させた1900年代後半、モネ(1840-1926)も、ローランス(Jaean-Paul Laurens 1838-1921)も、当時の「現代アーティスト」、つまり彼にとってほぼ同時代人でした。
ローランスに代表されるサロン系古典派から印象派へと、絵画の潮流が劇的に変わる歴史を知った眼でみると、一見、一貫性がないように思える春翠のテイストですが、彼にとってはその後のアート史など、実は、関係のないことともいえます。
林忠正や鹿子木孟郎などのアドバイスを受けながら、屈託なく作品を選んでいったのでしょう。
中には、いかにも当時の西洋貴族趣味が反映されたような大型犬を描いた一枚(ジョン・サージェント・ノーブル「猟犬と獲物」)など、春翠の意外に「普通」な感覚がうかがえる作品もあります。
泉屋博古館の洋画コレクションを代表する傑作、ローランスの「マルソー将軍の遺体の前のオーストリアの参謀たち」(1877)は、春翠がパトロネージュしていた鹿子木孟郎の仲介により、1906年、コレクションに加えられた絵画です。
時代はすでにサロン系から印象派に移りつつあったにも関わらず、春翠がローランスの弟子である鹿子木に購入作の選定を任せたために、この傑作が住友家に入ることになりました。
印象派のマスターピースは本邦にも多くありますけれど、サロン系アカデミズム派の、特に大作となると、とても限定的ではないでしょうか。
結果的に、春翠の、ある種の「こだわりの無さ」によって、非常に貴重な歴史画がこの国に残ることとなった、ともいえそうです。
流派系統にこだわらない春翠の傾向は、日本における洋画家たちにも及んでいます。
先述したように黒田清輝を贔屓する一方、彼と鋭く対立した鹿子木孟郎を積極的に支援し、大型作品を購入。
上賀茂神社の祭礼を描いた鹿子木の「加茂の競馬」(1913)は、150センチX210センチの大作で、現在は三井住友銀行の所有となっています(泉屋博古館東京に寄託)。
丁寧に塗り重ねられた油彩の濃厚な色彩と陰影。
ローランスから仕込まれた「印象派以前」のフランス絵画が持っていた伝統によって仕上げられた非常に日本的な光景が、今となってはとても新鮮に眼に映ります。
モネや黒田清輝の「光」と、ローランス&鹿子木師弟の「陰」。
どちらも隔てなく愛でた住友友純だからこその「光陰礼賛」。
春翠のコレクションに焦点を絞ったことで、東京展よりも、このタイトルが、むしろ、映える内容となっているようにも思えます。