丸ごと細見美術館展

 

開館25周年記念展
京都 細見美術館の名品 ー琳派若冲、ときめきの日本美術ー

■2023年3月22日〜4月10日
■大阪髙島屋 7階グランドホール

 

岡崎の細見美術館が開館25周年を迎え、大阪・東京(日本橋)・名古屋の高島屋各店を巡る記念展が開催されています。

最初の巡回地、難波の大阪展を覗いてみました。

www.mbs.jp

 

細見良(初代古香庵 1901-1979)とその長男、細見實(二代古香庵 1922-2006)が収集した美術品、約100点。
この美術館の主だったコレクションが、丸ごと、一堂に会しています。

細見美術館の名品」がタイトルですから、当たり前のように思われるかもしれません。
でも、京都にある細見美術館本体の施設では、一度にこれだけの作品を展示するキャパシティを確保できないのではないでしょうか。
高島屋の大催事会場がもつ広さによって、「一堂に会する」ことが実現されているのです。
実は、京都以上に、細見美術館の全貌を堪能できる展覧会かもしれません。

コレクションの内容を説明した展示解説板の中に、「重要文化財に指定された所蔵品の九割が、仏教・神道美術に関するものである」という文言があります。
しかし、本展では、その細見美術館が自慢する重要文化財は一つも展示されていません。
これは当たり前のことで、重要文化財は、搬入搬出時のリスクなどを考慮し、文化庁の示達によって「デパート等での展示」がそもそも禁止されているからです(なお、「重要美術品」は禁止対象ではないので展示されています。これってちょっとおかしい区分ではあるといつも思うのですが)。
細見の名品群、その「丸ごと」とはしたものの、正確には「ほぼ丸ごと」、ということになります。

ところが、本展に合わせて制作された図録にはちゃんと重文作品の数々が紹介されていて、「出品目録」(P.246)にも掲載されています。
実はこの記念展、高島屋三店のあと、来年2024年に静岡市美術館(2024年4月13日〜5月26日)と長野県立美術館(2024年10月5日〜11月17日)でも開催される予定となっているのです。
この2館はどちらも立派な公立美術館ですから重文展示は当然にOKということになります。

図録にある以上、名品として知られる華麗な華鬘や立体春日曼荼羅などの重要文化財は、静岡と長野では展示されるとみられますから、どうしてもこの美術館の主なコレクションを「丸ごと」鑑賞したい場合は、来年、現地で観るか、重文作品に関しては岡崎での展示を気長に待つということになりそうです。

ただ、では高島屋での展示が物足りないかといえば、全然そんなことはないわけです。むしろ昨今のデパート内における展覧会としては異例の充実度を誇る内容で、やや窮屈さを感じるくらい、傑作が会場に詰め込まれています。
わずか二週間余りの展示期間ということがもったいなく感じられます。

「古香庵」の初代と二代。

この二人は親子なのですけれど、その趣味はかなり違っています。
どちらも日本美術というカテゴリーにほぼ特化しているものの、古代から桃山くらいまでをターゲットとした初代に対し、二代實が好んだのは琳派を中心とした江戸時代以降の近世絵画です。
「コレクター」としての人生が重なっていた時期がある父親と息子です。
全く違った分野の趣味であればともかく、「日本美術」という同じ枠組みの中ですから、逆にその「趣味性」についてお互い鋭く対立する面もあったのではないかと推測されます。

図録の中で山下裕二が「親子で騙し合いをするようなこともあったらしい」(P.31)と述べています。
具体的にどういう「騙し」なのかわかりませんが、肉親同士だけに、一層、コレクターとして生々しいやり取りがあったとみられることは想像に難くありません。

これも山下のコメントですが、初代は「江戸絵画に対しては、基本的に冷淡だったと思う」と図録内にあります。
今や、細見美術館といえば、若冲琳派といった二代目の趣味によって集められた近世絵画の方が広く注目されていますから、当世における人気という点では、息子が父に勝っている、とみれるかもしれません。
でも、一方で、収蔵品における重要文化財をみてみると、初代古香庵が集めたものばかりです。
特に、細見良は金属工芸品に対する実に鋭い審美眼を持っていて、例えば出羽の羽黒山付近から出土した和鏡の至宝「羽黒鏡」(高島屋展には出展されません)など、彼の収集した金工品はいずれも国宝級のクオリティを備えた逸品揃い。
長い目で見た文化財としての価値を考えると、コレクションにおける父の優位性が際立ってきます。

結果として、この親子が繋いだ細見家のコレクションは、実に幅広い日本美術のレパートリーを備えることに成功したといえそうです。
そして、それらを収める美術館を実際建設してしまい、四半世紀にわたって維持運営してきた三代目、細見良行館長の決意と手腕。

あまり類例がない「三代」といえるかもしれません。

 

www.emuseum.or.jp

 

さて、江戸絵画を特に好んだ細見實という人は、ちょっとユニークな視点を持っていたのではないかと、今回まとめて鑑賞し、あらためて感じました。
琳派の王道を集めてはいるのですが、例えば鈴木其一の「水辺家鴨図屏風」や中村芳中「白梅小禽図屏風」にみられる、どこかとぼけた図像の可笑しさ。
若冲にしても「糸瓜群虫図」を観ると、例えば鶏類を描いた彼とはかなり趣を異にした、まるで西洋博物学的なその写実性に驚きつつ、糸瓜を垂直に下降するカタツムリに絵師の悪戯心を感じたりもします。
特に、昨年細見美術館パナソニック留美術館で開催された神坂雪佳特集展でもメインビジュアルに採用されていた「金魚玉図」などは細見實のやや遊戯性を含んだ審美眼を感じさせる最たるものでしょう。

仏教美術を至高とし、かなり重厚かつ厳格な趣味を持っていた父細見良に対する対抗心だったのか、それとも生来の趣向なのか、それはわかりませんけれど、単に江戸絵画をカタログ的に集めていたわけではない、この人のちょっと斜に構えたようなカッコ良さが印象に残りました。