グッチ展|京都市京セラ美術館

 

グッチ日本上陸60周年記念展
GUCCI COSMOS

■2024年10月1日〜12月1日
京都市京セラ美術館

 

凝ったセノグラフィーによる変化に富んだ構成に加え、京都市美術館のコレクションとのコラボレーションも一部織り交ぜた大グッチ展です。

このブランドの熱心なファンというわけではないのですが、中には懐かしい品々もあり、回顧展としても一定の充実ぶりがみられる企画だと思います。

kyotocity-kyocera.museum

 

グッチが日本で初めてビジネスを展開した年が1964年なのだそうです。
この展覧会はそれから60年が経過したことを受けての開催とされているのですが、アニバーサリーを祝うにしてはやや中途半端な年数という印象を受けます。

また、グッチが最初に国内でブティックを開いた場所は東京、銀座の並木通り。
1972年のことです。
祝うならば京都よりも東京の方がふさわしいようにも思えます。

実はこの「GUCCI COSMOS」は2023年4月に中国上海でスタートした企画展の巡回なのです。
つまり日本上陸記念を主たる動機としてプロデュースされたというよりも、世界規模での開催を前提として企画されたエキシビジョンということなのでしょう。
上海の後、ロンドンでも昨年秋に開催されています。
京都市は、グッチ発祥の地であり本店が所在するフィレンツェ姉妹都市関係にあります(因みに東京はローマ、大阪はミラノです)。
こうした縁で日本での巡回場所としてこの地が選ばれ、京都市美での開催となった経緯にあるようです。

 

 

東山キューブに加え本館北回廊の1階が充当されていますから、この美術館の企画展としては大規模な部類に入り、スペース的には比較的余裕があるのではないかとみていました。
しかし、今回はかなり強めに「日時指定予約」が推奨されています。
入場してみて、この措置がとられた理由がわかりました。
エントランスに大きな扉があり、入場者は何名かまとめてまずその扉の前で待機するよう求められます。
やがて扉の表面に巨大な映像が写し出されます。
短い映像を観た後、扉が開き、中へと誘導されるのですが、通路はかなり狭く設営されているように感じました。
一気に多数の観客が詰めかけるとたちまち大渋滞が発生してしまうことが予想されます。
こうした会場演出や、特に前半における大量の商品群を紹介するスペースの狭隘さもあって、やや厳格に日時指定予約が求められているようです。
ただ、余裕がある場合は事前予約なしでも入場は可能となっていて、実際、私が鑑賞した平日の昼下がりでは予約なしでも問題なくゆったりと鑑賞することができました。
週末や休日、会期末近辺は予約した方が安心かもしれません。

 

 

展覧会のコンセプトとデザインをエスデブリン(Es Devlin 1971-)が担当しています。
偶然ですけれど、先日、ロンドンのナショナル・シアターで上演された「ザ・モーテイヴ・アンド・ザ・キュー」(The Motive and the Cue 2023)の舞台映像を鑑賞する機会がありました。
この演劇の美術を手掛けていたのがエスデブリンでした。
若干ミニマルな要素を取り入れて無駄を排除しつつも、品の良い室内装飾と家具でまとめあげたデブリンの美術がサム・メンデスによる演出をナチュラルに支えた名舞台です。

 

www.ntlive.jp


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この展覧会でもデブリンのクラシカルさと先鋭さを巧みに調合したセノグラフィーを堪能することができると思います。
グッチの長い歴史と折々に登場した名品の数々を紹介するコーナーでは、まるで古めかしいショップの商品棚を再現したかのようなケース類が印象的です。

昔、ちょっと靴集めにハマっていた頃、ブーツ系を中心にグッチの製品をいくつか購入していたことがあります。
有名なローファーはさすがにブランド臭が強すぎるので入手はしませんでしたけれど、あらためて実物をじっくり観るとその完成度の高さと独特の色気に魅了されました。

 

 

イタリアの美術・ファッション評論家、マリア・ルイーザ・フリーザがキュレーターを務めています。
かなり欲張った展示構成で、バックや靴、ゴルフやテニスといったスポーツ系ファッション、それにおびただしいドレス類まで所狭しと陳列されています。
ゾエトロープを使ったインスタレーション風の展示や、VRによるフィレンツェドゥカーレ宮殿前広場の再現コーナー等もあり、飽きのこない工夫が随所にほどこされていました。

 

 

展示の大枠は上海展、ロンドン展と共通していると思われます。
ただ、京都展ならではの演出もみられました。
グッチといえば竹を取っ手に採用したハンドバック「バンブー」がとりわけ有名です。
洛西あたりとみられる竹林風景などを会場内に取り込みながら「竹」を媒介として京都とこのブランドを結びつけたコーナーがとりわけ印象的でした。

また、ゴルフや乗馬といった、グッチを特徴づける要素の一つであるスポーツ・ファッションを特集した展示室では、京都市美術館が所蔵する絵画作品がゲスト出展され組み合わされています。
ゴルフウェアの近くには丹羽阿樹子の「ゴルフ」、海水浴ファッションには中村研一の「瀬戸内海」、菊地契月の「紫騮」が乗馬用の鞍の前に展示されています。
なかなかにシュールな光景で楽しめました。

 

 

 

このブランドを一時は代表していたグリーン・レッド・グリーンのウェブシリーズ製品も目にすることができますが、簡単に真似できる上にライセンスを無茶苦茶に許容した結果、グッチの価値を減じたデザインともいえます。
今回、展覧会全体のイメージカラーにもなっているマルーンが今のグッチを象徴しているのでしょう。
展示はマルーンを使った官能的な曲線が美しい2024年発表の最新商品の紹介で締めくくられていました。

 

 

なおグッチといえば、リドリー・スコット監督の映画「ハウス・オブ・グッチ」でも描かれた創業家一族によるとんでもないスキャンダルがすぐに想起されるわけですけれど、そういう「歴史」は丁寧に展覧会からは排除されています。
グッチは今やケリング傘下の一ブランドであり、創業家とは無関係ですから、当然の対応とはいえます。

全面的に写真撮影が解禁されている展覧会です。
関連グッズなどの販売はなく、図録も制作はされていないようでした。
会場入り口で簡単なリーフレットが無料配布されています。