ウスター美術館の印象派展|あべのハルカス美術館

 

印象派 
モネからアメリカへ ウスター美術館所蔵

■2024年10月12日~2025年1月5日
あべのハルカス美術館

 

東京都美術館を皮切りに郡山市立美術館、八王子の東京富士美術館と巡回してきたウスター美術館展が、最終会場である天王寺あべのハルカス美術館で現在開催されています。

上野展は今年の1月下旬にはじまっていますから、約1年間、ウスターの印象派コレクションが各地を巡っていたことになります。
日テレ系の放送局が各会場の主催に加わっています。
おそらく相応の鑑賞ニーズを見込んでの全国巡回展であり、実際、大阪展もそれなりに賑わっていました。

www.aham.jp

 

この展覧会はもともとウスター美術館(Worcester Art Museum)自体が企画した"Frontiers of impressionism"という一種のコレクション展がコアになっています。
2023年の4月から6月にかけて現地ウスターで開催された後、同年秋にはフロリダのタンパ美術館にも巡回。
日本展はその後を受けて開催されています。

ウスター展ではこの企画のタイトルが示す通り、パリで始まった印象派が「開拓地」であったアメリカに拡大していった様子が館蔵品を中心に紹介されていたようです。
日本巡回展でもその大きな構成は変わらないとみられ、フランスの画家たちの作品も扱われているものの、展示の多くは「アメリ印象派」関連作品で占められています。

アメリカの画家たちの作品も魅力的なのですが、そうした""Frontiers"たちを前面に押し出してしまうとこの国での集客に不安があったのかもしれません。
日本展では英語原題をそのままとしつつ、「印象派 モネからアメリカへ ウスター美術館所蔵」とやや内容に幅をもたせるタイトルがつけられたようです。

www.worcesterart.org

 

メインビジュアルにモネ(Claude Monet 1840-1926)の「睡蓮」(1908)が採用されているのも、集客面を意識してのことでしょう。
ただこれは日本展に限られていたわけではなくウスターでこの企画展が開催されたときも同じ作品がアートワークを飾っています。
ウスター美術館は、今や大人気の「睡蓮」を世界で初めて「美術館として」購入しています。
そのことをこのミュージアムは随分と誇っていて、「睡蓮」購入に至ったプロセスについて、パリの画商(デュラン=リュエル画廊)との売買交渉記録などを紹介しつつ大きく丁寧に扱っていました。
しかし、ウスターから運ばれたモネは実はこの一点のみなのです。
これではいかにも寂しいと考えたのか日本テレビ放送網(株)が所有するモネの「税官吏の小屋・荒れた海」(1882)やルノワール闘牛士姿のアンブロワーズ・ヴォラール」(1917)等を日本側が提供、「客寄せ睡蓮」感を薄める配慮が施されていました。
とはいえ、ウスターが誇る一点物の「睡蓮」も素晴らしい作品であることに変わりはありません。
60歳代を迎えていたモネの穏やかに繊細な彩色のバランスと筆致が確認できる名品です。

クロード・モネ「睡蓮」(ウスター美術館蔵)

 

ウスター美術館コレクションが主体とはいえ、日本側も"Frontiers of impressionism"という本来のタイトルを独自に意識してはいます。
黒田清輝(1866-1924)、久米桂一郎(1866-1934)、太田喜二郎(1883-1951)といった画家の作品を国内各地の美術館等から取り寄せ、日本における「印象派の開拓」を一瞥していました。

巡回会場の一つだった郡山市立美術館からは珍しい斎藤豊作(1880-1951)の「風景」(1912頃)が出張。
関西ではあまり観ることができない作品だと思います。
素直に大胆な斎藤の点描画を楽しむことができました。

また、大原孫三郎の依頼を受けて大原美術館西洋美術コレクションの基礎となる作品を欧州で収集したことで知られる児玉虎次郎(1881-1929)の「リュクサンブール公園の噴水」(1919〜1923頃 府中市美術館蔵)は、曇天の柔らかい空気感が詩情豊かにとらえられた作品で、彼が印象派の手法を巧みに消化していたことが伝わってきます。

 


www.youtube.com

 

チャイルド・ハッサム(Childe Hassam 1859-1935)に代表されるアメリカの画家たちによる印象派受容において、何よりも特徴的なことはその題材です。
彼らはフランスの印象派たちからその技法、スタイルを貪欲に吸収しつつも、描く対象については「アメリカ」の事物にこだわりました。
例えばハッサムの代表作の一つといってもよい「朝食室、冬の朝、ニューヨーク」(1911)では、ざっくりと淡く筆触分割の手法を用いながら、パリとは明らかに違うNY独特の気怠い朝の空気をとらえ、カーテン越しには摩天楼が写し出されています。

 

デウィット・パーシャル「ハーミット・クラーク・キャニオン」(ウスター美術館蔵)

 

モネの睡蓮と並んでこの展覧会のキービジュアルに採用されているデウィット・パーシャル(DeWitt Parshall 1864-1956)の「ハーミット・クリーク・キャニオン」(1910-1916)は、グランド・キャニオンを照らす陽光を緑と黄、青と紫に分割して岩肌に投影させています。
対象物と描画法が奇妙にズレているため、一般的にイメージするグランド・キャニオンの姿とはかなり異質な印象を受けるのですが、そこが逆にこの絵画に独特のユニークさと美しさを与えているようでした。

 

ポール・シニャック「ゴルフ・ジュアン」(ウスター美術館蔵)

 

なお、上野展では出展されていたセザンヌ「オーヴェールの曲がり道」(東京富士美術館蔵)、黒田清輝「落葉」(東京国立近代美術館蔵)、藤島武二「ティヴォリ、ヴィラ・デステの池」(東京藝術大学蔵)、山下新太郎「供物」(石橋財団アーティゾン美術館蔵)の4点は大阪展では展示されていません。
ただ、いずれも国内の美術館からのゲスト品であり、ウスター美術館からの作品については省略されていないようでした。

写真撮影については「睡蓮」など6点のみ限定的に可能となっていますが、火曜〜金曜の17時から閉館時刻の20時までは全作品の撮影が許可されています。