アバド&ルツェルン祝祭管 ブルックナー第5番

 

Symphony No. 5 [Blu-ray] [Import]

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 ブルックナー: 交響曲第5番 変ロ長調 (ノヴァーク版)

ルツェルン祝祭管弦楽団
指揮: クラウディオ・アバド

(Accentus Music ACC10243BD Blu-ray 2012年リリース)

 

2011年8月、ルツェルン音楽祭、カルチャー・コングレス・センター(KKL)でのライヴを収録したブルーレイです。

2014年1月にアバドは80歳で亡くなりますから、結果的に最晩年に近い姿をとらえた映像。

でもこのディスクで観る指揮ぶりは元気そのものです。

 

ポディウムにしっかり肩幅の広さで両足を根付かせつつ、無駄ないタクトさばきでオーケストラと対話していく。

この人独特の、ちょっと下顎を突き出して音楽をすくいとろうとするようなスタイル。

ときおり満足そうに上品な笑みを浮かべるお馴染みの表情がみられます。

 

アバドルツェルン祝祭管のブルックナーでは1番と9番がCDでリリースされていて、どちらも大変な名演。

この5番も非常に感動的な記録だと思います。

 

アバドBPOのシェフだった時代、1998年10月、サントリーホールで同じブルックナー5番を鑑賞したことがあります(前半はパユとラングラメによるモーツァルトのフルート&ハープ協奏曲)。

BPOの分厚い響きに圧倒された記憶が今でも残っています。

他方、ルツェルンでの演奏で聴くこの5番は、響きの厚みというよりその透明度の高さが印象的。

コーリャ・ブラッハーをコンマスに据え、ヴィオラにヴォルフラム・クリスト、コントラバスにアロイス・ポッシュ、ジャック・ズーンのフルート、アレッサンドロ・カルボナーレのクラリネット、アレッシオ・アレグリーニのホルンと、ソリスト級の名手をプリンシパルに投入。

さらにザビーネ・マイヤー管楽アンサンブルの名手たちやライプツィヒ弦楽四重奏団も参加。

ベースとなっているのはマーラー室内管弦楽団の若手中堅奏者たちです。

ベルリン・フィルもスーパーオーケストラですが、この頃のルツェルン祝祭管はBPO的な馬力の強さよりも、晩年のアバドが志向したと思われるスマート、かつ、極上のサウンドを体現しています。

バランスのとれた自然体の指揮はテンポ設定にもあらわれていて、全体で約75分。

ほんの少し速めですが、中庸の範囲だと思います。

 

しかし、例えば第2楽章で聴かれるように、歌うべきところはしっかりテンポの余裕をとってたっぷりと表情付けがなされています。

強弱も結構大胆に落差をつけているので、教科書的・模範的解釈とも一線を画しています。

澄み切った弦楽アンサンブルの上に管楽器の名手たちが次々超絶のクオリティで彩りを加えていく。

ヴァントのような峻厳に構築されたモダニスム様式とは違い、所々に「型」をはみ出した色と歌が緻密かつ入念に仕込まれていくので、その情報量の多さに耳と目が追いつかなくなるくらい。

第4楽章フィナーレでは、それまでいくぶん余裕をもっているように奏していたオーケストラが全力を開放。

その壮麗さに圧倒されます。

 

終演後は当然のようにスタンディング・オベーション

会場には盟友ポリーニの姿も。

映像にはマイクらしいものが映っていませんが、ホールトーンも含め、リアリティ十分なサウンド

首席奏者たちをいちいちクローズアップしすぎるカメラワークに煩さがあるものの、例えばホルンのアレグリーニが微妙にマウスピースと唇の角度を可変させるあたりは見ていてその技の細かさに感心させられてもしまう。

 

2000年の大病後、げっそりと頬がこけて人相まで変わってしまったアバド

しかしその演奏スタイルはむしろ闊達に瑞々しく変化していったように感じます。

軽さと高い密度を兼ね備えた響き。

豊かな色彩が伴った表情付けとスタイリッシュさ。

両立させることが難しい要素を生き生きと共存させた見事なブルックナーだと思います。

 

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