ベーム&VPO 「新世界より」SACD化

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ドヴォルザーク: 交響曲第9番 ホ短調 作品95 「新世界より

ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
指揮: カール・ベーム
(DG/TOWER RECORDS PROC-2195  SACDハイブリッド) 

 

第1楽章冒頭、これ以上ないといえるほど柔らかい弦群の響きで音楽が導入されます。1978年5月、ムジークフェラインザールでの録音。
当時のVPOがもっていたと思われる、滋味深いとしか言いようのないサウンドがとらえられていると感じます。

カール・ベーム(Karl Böhm 1894-1981)といえば、謹厳さや折り目正しさといった言葉でそのスタイルを形容されることが多い指揮者です。
しかし、彼のワーグナー「指輪」やR.シュトラウスエレクトラ」、ベルクの「ヴォツェック」と「ルル」など、ライヴ収録のオペラを聴くと、鋭く生々しいまでに音楽を抉る強烈な意志が溢れていて、決して生真面目一辺倒の人だったわけではないことがわかります。
ただ、モーツァルトからブラームスに至る独墺交響曲群の本流を収めたDGによる一連の録音を聴くと、確かに音楽そのもののフォルムをまずきっちり固めていく手法が顕著といえるかもしれません。
VPOやBPOがキリッと締め上げられている様子がその響きから伝わってきます。

ところでドヴォルザークベームの主要レパートリーに含まれない作曲家です。
最晩年のベームはこの他にもLSOとこれも彼の印象からはほど遠いチャイコフスキーの三大交響曲を録音するなど意欲的な仕事をDGに残しています。
しかし、どれも彼のモーツァルトベートーヴェンシューベルトほどには評価されてこなかったように思います。
私は「新世界」のさほど熱心な聴き手ではないこともあって、2018年にタワーレコード"ヴィンテージ・コレクション+plus"でシューマンの第4交響曲と共にSACD化されたこのディスクを聴くまでベームの新世界は未鑑賞のままでした。

実際に聴いてみてとてもびっくりしました。

はじめにも書いた通り、VPOの響きにまず陶然としてしまいます。
チェロからホルン、木管につながれていく導入部分。
非常に遅いテンポを採用しつつベームが優先しているのは、当時このオーケストラだけがもっていた極上の肌理細やかさと柔らかい響きの再現。
主部に至るドラマティックな展開においても、必要以上に荒々しい処理をほどこさず、ウッディーなVPOの美観を堅持し続けています。
極端に遅いのは第1楽章冒頭だけで、あとは概ね常識的なテンポ感で進行しますが、第2楽章の弦群による繊細さを極めた響きのグラデーションに代表されるように、どこをとってもオーケストラの柔らかく上質なハーモニーが保持されています。
厳しいタクトによる練度の結果ではなく、オーケストラ自身がその内部で互いの響きを聴きあって自発的に創造しないとこのようなトーンは生まれてこないのではないかと思われます。
しかし、ベームは彼のジャケット写真でよくみる好々爺風の放任主義でこのドヴォルザークを仕上げているわけではまったくありません。
響きの主導権をオケに委ねながらも、この人らしい清潔な語法をしっかり守らせてもいるのです。

土臭くも汗臭くもならない範囲で、気品に満ちたぬくもりの美が全編から伝わる交響曲
こういう「新世界」が聴きたかったのです。
SACD化によって、VPOのデリケートな素材そのものの旨味がおそらくCDよりまんべんなく抽出されているように感じます。

 

さて、このディスクのジャケットがまた素晴らしいのです。
フランシスコ・イダルゴ(Francisco Hidalgo)によるニューヨークの俯瞰写真。

2009年に没したスペイン出身のイラストレーターにしてフォトグラファーです。1960〜70年代を中心にパリやロンドン、NYの風景写真などで評価されていました。

雲間からさす日光に照らされた陰翳深いマンハッタン島がハイパーリアリズム絵画のように写し取られています。

 

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ブラームス: 交響曲第1番 (初回限定盤)(SHM-SACD)

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