住友吉左衛門たちの茶碗

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伝世の茶道具 ー珠玉の住友コレクションー

■2021年11月6日〜12月5日
泉屋博古館

 

昨年開館60周年を祝い、選りすぐりの名品展を開催した泉屋博古館(1960年開館)。

今年秋のコレクション展は茶道具の特集です。

住友家所蔵の茶道具、そのほぼ全ての受け入れを2016年に完了し、全量調査を終えたことから今回の企画に至ったのだとか。

約90点に及ぶ道具類や掛物が文字通り所狭しと展示されています。

泉屋博古館コレクションのベースは第15代住友吉左衛門友純(春翠)の収集によるもの。

茶道具もその例外ではありません。

しかし、春翠がほぼ単独で築いた中国青銅器や絵画類のコレクションとは違い、茶道具に関しては、春翠以前、江戸時代から続く住友家の存在感もほのかに感じられます。

歴代の当主たちの中には公家や千家との付き合いの中で茶の湯の文化に深く関わった人たちが存在し、家風の中に茶の湯が自然と取り込まれていました。

さらに、熊倉功夫の指摘(『泉屋博古 茶道具』P.9)にあるように、住友春翠自身の蒐集が「網羅主義ではない」傾向であったことから、例えば現在ちょうど京博で開催されている「畠山記念館の名品」展にみる畠山一清(即翁)や、野村美術館の野村徳七(得庵)による、いかにも「大名茶の湯」風の名物蒐集とは一味違うコレクションになっています。

 

住友家伝来品の中で、おそらく最も有名な茶碗が「小井戸茶碗 銘 六地蔵」でしょう。

しかし、これは春翠ではなく、第12代住友吉左衛門友親が1890(明治23)年に入手したものです。

六地蔵近辺で小堀遠州が手に入れたことに因むのだそうです。

小ぶりにもかかわらず複雑に梅花皮が走り、とても密度の高い景色が現れています。

ところが友親は、この茶碗を手に入れる際、それがあまりの高額だっため、住友家一族から反感を買うに至ります。

さらに、これに見合う取り合わせ道具が無いことを悩んでいる内に、茶席で使うこともなく亡くなってしまったのだそうです。

近代財閥になる以前の住友家当主の有り様が伺える、ちょっと気の毒なエピソードです。

 

その「六地蔵」を実際の茶会で使って12代吉左衛門を追善したのが、15代の春翠。

1919(大正8)年の晩秋、大阪茶臼山の住友本邸で開かれた茶会では12代が果たせなかった取り合わせの妙を15代が見事に創造したようです。

この日のために茶入「真如堂」や「大講堂釜」といった名物類を次々と春翠は入手。

善美が尽くされたとされています。

前述のように「網羅的」ではなく、都度都度の茶会を意識して品々を集めていった春翠の趣向が伺えます。

春翠自身が手に入れた「小井戸茶碗 銘 筑波山」が「六地蔵」のすぐ横に展示されています。

彼はこの茶碗を「六地蔵に次ぐもの」と評価。

徳大寺家から住友家に入った春翠から見れば血縁のない12代の収集品を最高位にリスペクトしていたことが伝わります。

 

春翠の長男寛一も父譲りの芸術家気質をもっていました。

ところが彼は茶の湯ではなく、絵画にのめり込んでいき、実業に興味を示さなかったことから廃嫡され、吉左衛門の名をつぐことはできませんでした。

しかし、彼の明清絵画コレクションは現在泉屋博物古館コレクションの一つの柱になっていて、これは前回の名品展でまとめて紹介されていました。

さて、春翠の後をつぎ、第16代吉左衛門となったのが財閥住友本社最後の社長、友成です。

15代の芸術趣味がそっくりそのまま引き継がれることはありませんでしたが、彼の時代にも茶道具の収集は続けられました。

「紅葉呉器茶碗」はかつて豪商天王寺屋五兵衛が所持し、鴻池、平瀬の同種茶碗と共に「浪速の三名物」として知られた名碗といわれています。

微妙な柔らかさと深みを含んだピンク色の中に点々と釉薬の掛けはずしがリズムを生んでいて、優雅なモダン味が感じられる傑作。

展覧会の最後に飾られ、歴代吉左衛門たちの茶碗を締めくくっています。

 

茶道具の合間に茶席の掛物として絵画が数点展示されています。

有名な「佐竹本三十六歌仙絵切」、「源信明」もその一枚ですが、泉屋博古館の実方葉子学芸部長によると、この掛物を住友春翠が茶席で用いたことはないのだそうです。

そういえば、畠山即翁も「佐竹本三十六歌仙絵切」の一枚、「源重之」を一時所有していたそうですが、茶会には用いず、数年で手放したのだとか(『畠山記念館の名品』展 図録P.11)。

春翠と即翁の趣味はかなり違うように感じますが、茶席における歌仙絵の扱いに関しては両者同様に苦労したようです。

ついでに「畠山記念館の名品」展とのつながりでいうと、同展で紹介されている「紗張釣花入 銘 針屋舟」は「天下三舟」の中の一つと呼ばれる名品。

残りの二つが京都にあって、一つが今回の住友コレクションで展示されている「砂張船形釣花入 銘 松本船」です。

残る「砂張釣舟花入 銘 淡路屋舟」は野村美術館が所蔵していますが、今年の秋季茶道具展での展示はないようです。

これももし展示されていれば、京都に「天下三舟」が揃ってお目見えしたことになります。

惜しい。

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