大阪市立美術館 休館中の巡回コレクション展

 

美をつくし―大阪市立美術館コレクション

■2022年9月14日~11月13日
サントリー美術館

 

2026年に開館90周年を迎える大阪市立美術館

記念イヤーを前に、老朽化した建物や館内設備などを修繕するため、今年の夏頃から3年程度の長期休館期間に入っています。

この機をとらえ、同館の逸品群がまとめて旅をすることになりました。

 

東京、福島(福島県立美術館 2023年3月21日〜5月21日)、熊本(熊本県立美術館 2023年9月16日〜11月12日)と、今年から来年にかけてコレクションが巡回。

天王寺から六本木に大阪市美が誇る名品の数々がやって来ました(ごく一部の作品が撮影可能となっています)。

会期末ギリギリ、間に合いました。

www.suntory.co.jp

 

展覧会のタイトルに「美をつくし」とあります。

英題は"Miwotsukushi - Beauty Galore" 

「澪標」とかけられていて、大阪市美が出している刊行物のタイトルにもなっています。

 

さて、本展の巡回コレクションは、当然、大阪市美が主導して選別されているわけですが、各地で微妙に出展品が異なっているようです。

会場となったサントリー美術館は、普段、日本美術の展示を専らとしているからか、村山槐多や佐伯祐三の洋画は、図録に掲載されているにもかかわらず、東京での展示が見送られたようです。

それでも、大阪市美コレクションの中核は中国美術や近世近代の日本画ですから、まさに「出開帳」企画にふさわしい、傑作や珍品が連続する素晴らしい内容に仕上がっていると思います。

 

休館中とはいっても、山口コレクションに含まれる巨大な中国石仏などは、さすがにロジスティクス面で負荷が高かったと見え、比較的、小さい彫像がピックアップされ、東京ミッドタウン内に運ばれています。

 

アートワーク内のキャッチコピーは「なにコレ」。

「なにわのアートコレクション」を略しています。

ということで、キービジュアルの一つに選ばれている作品が後漢時代の小さい青銅像、「仙人」です。

青銅鍍金銀「仙人」

この作品に代表されるように、ちょっと「大阪=お笑い」のイメージを被せて味付けをしている面があって、カザール・コレクションから選出された、オモシロ系の根付などもそれに一役かっていました。

 

しかし、実態としてみると、お笑い的に客寄せを意識した品はごく一部であり、大半が渋い東洋・日本美術のラインナップで占められています。

上記「仙人」にしても、これだけ切り取れられてアイコン化されるとヘンテコに見えるものの、儀礼祭祀に関係したであろう造形表現であることが本物を見れば実感できる小さなマスターピース

田万清臣・明子夫妻や、山口謙四郎、ウーゴ・アルフォンス・カザールなど、大阪市美にコレクションを寄せた人たちが、そもそも「お笑い」を特段意識していたわけもありませんから、結果として当然こうした内容にはなるわけです。

ただ、そうはいっても、やはり妙にアクが強い個性を持っている作品が多いようにも感じられます。

この美術館のコレクションには、私の思い込みのせいなのか、古い中国美術から近代絵画に至るまで、独特のユニークさがあり、そこがとっても魅力的と感じます。

 

近世日本画では、田万コレクションに含まれる巨大な屏風絵、狩野宗秀による「四季花鳥図屏風」が、特に存在感を放っていました。

永徳の弟として知られる宗秀の筆は、偉大な兄の作風に似るとされていますが、図像全体に妙な過剰さがあって、鍋鶴や孔雀は、優雅というより、異様な力強さをもって描かれています。

まるで怪鳥のようでもあり、「四季花鳥図」というカテゴリーからはみ出しているような迫力。

余白をほとんど残さずこれでもかと豪華絢爛な花や木で埋め尽くすされた大画面は、桃山バロックの異形なエネルギーを発散しているように感じられました。

 

https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/7/74/Kan%C5%8D_S%C5%8Dsh%C5%AB_Blumen_und_V%C3%B6gel_1.jpg

https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/4/4a/Kan%C5%8D_S%C5%8Dsh%C5%AB_Blumen_und_V%C3%B6gel_2.jpg

 

京都あたりでは、住友の美術支援というと、十五代住友吉左衛門友純(春翠)ということになりますが、大阪市美では十六代友成の方がどちらかというとリスペクトされています。

彼によって戦時期、近代大阪・京都画壇の名品がこの美術館に寄贈されていて、本展でも「住友コレクション」として何作か披露されています。

20点の大作で構成されたそのコレクションが、大阪市美における近代日本画収蔵品形成の中核になり、北野恒富や島成園といった大阪耽美派ともいうべき画家たちの作品をこの美術館に引き寄せたといえるかもしれません。

なかでも、近年、北野恒富の評価が上昇基調にあり、本展図録には彼の「星」が採用されています。

北野恒富「星」(会場内で撮影)

休館前、大阪市立美術館の常設展示コーナーは、一部大型展示ケースにひびが入っていたり、照明も単調で、やや時代を感じさせる雰囲気でした。

サントリー美術館の陰影を豊かに現す最新の展示環境で観ると、特に絵画や工芸などは見違えるような高級感が漂ってきます。

2025年春に完了予定のリニューアル工事により、大阪市美の展示舞台がどのようにアップグレードされるのか、天王寺での顔見せコレクション展を今から楽しみにしています。