特別企画展 日本のやきもの―縄文土器から近代京焼まで―
■2022年1月5日〜2月13日
■大和文華館
陶磁器のコレクションで知られる私設ミュージアムはたくさんありますが、自前の館蔵品だけで縄文時代から近世の陶芸までカバーすることができるところは滅多にありません。
82点の展示品の内、74点が大和文華館の所蔵品。
華を添える格好で個人コレクションによる近代の京焼8点がゲスト出陳されています。
すべて日本で焼かれた陶磁器のみで構成されています。
大和文華館は中国・朝鮮由来の名品も数多く収蔵。
それらを今回は封印し、この国で焼かれた品々に特化して一気にやきもの史を展観しようという企画です。
縄文から古墳時代にかけての土器や土偶、埴輪から展示が始まります。
博物学・考古学的な重要性はもちろんですが、なにより美的な価値に重きをおいて収集されているところがこの美術館らしいところです。
弥生時代の壺や須恵器に見られる洗練された造形美や、清らかな性格が表現されているようにすら感じられる男子埴輪像からは、大和文華館が収集のモットーとしている「鑑賞価値重視」の姿勢が端的にみてとれると思います。
信楽、伊賀の野趣に富んだ壺から、古雅な気品をまとった瀬戸天目。
志野、織部といった桃山の個性的な茶碗などを経て古伊万里、柿右衛門、鍋島、仁清、乾山と続くコレクションはまさに日本やきもの史のハイライト。
他方で、この国の陶磁器が大陸からの影響を大きく受けた歴史もしっかりふまえていて、詳細な説明板による解説が鑑賞者をサポートしています。
京阪神には茶道具を中心としたやきものの名品を蔵する私設美術館がたくさんあります。
住友友純の泉屋博古館、野村徳七の野村美術館、藤田傳三郎の藤田美術館、小林一三の逸翁美術館、などなど。
そのほとんどが実業界で財を成した個人の趣味によるコレクションです。
大和文華館がそれら私設美術館と比べ際立ってユニークなのは、実質的な創設者である近鉄の種田虎雄が館蔵品の収集を美術史家の矢代幸雄(ピアノ協奏曲が有名な矢代秋雄の父)に一任したところにあります。
結果、一個人の趣味というより、日本・東洋美術史を俯瞰的に見渡した上で、矢代の価値判断によって作品が収集されることになりました。
それが今回の「日本やきもの史展」ともいうべき館蔵品展の成立に関係していると思われます。
といっても、例えば東西の国立博物館のように教科書的歴史網羅性が必ずしも重視されているわけではないし、またそうする必要もないわけで、名品入手の機会があれば茶道具だろうが何だろうが意欲的に購入してきた美術館でもあります。
明治実業家茶人たちの早い世代、原三渓や益田鈍翁の蒐集品が売り立てられ始めたところをしっかり受け止めたことで一気に館蔵品を充実させています。
野々村仁清作「色絵おしどり香合」は1946(昭和21)年9月、矢代幸雄の采配によって大和文華館が最初に購入した記念すべき美術品45件の内の1点です(下記は大和文華館HPからの画像リンク)。
高さ5センチ余りの非常に小さい作品。
香合ですから小さいのは当たり前なのですが、驚くのは首から胸にかけて細かく彩色された羽毛にみられるミニアチュールのような美しさ。
全体は丸みを強調した柔らかく愛らしい形で整えられています。
しかし細部を見ると仁清の研ぎ澄まされた技巧と色彩センスの妙によって、緊張感すらはらんだ繊細さが際立ってきます。
伝来がはっきりしている品でもあります。
1732(享保17)年11月20日、近衛家熙がこの香合を茶会で使用した記録(山科道安の『槐記』)が残っています。
江戸前期、近世宮廷文化ネットワークの中心にいた家熙の好みに合わせて仁清が献上した逸品。
近衛家伝来品であれば陽明文庫に納められていてもよさそうですが、1918(大正7)年、大規模な売り立ての際、売却され近衛家から離れました。
売り立て目録である「近衛公爵御蔵器第一回入札」の中に「色絵鴛鴦香合」、槐記享保十七年十一月廿日ニ記載、仁清作と記されていることが確認できます。
その他、尾形乾山「色絵夕顔文茶碗」、青木木米「黒地色絵瓜桃文鉢」など、渋さと華やかさを同居させたような近世陶芸の数々にも目を奪われました。
個人蔵の京焼コレクションも素晴らしい作品が取り揃えられています。
中でも七代錦光山宗兵衛の「青磁石蕗文瓶」は大正期、アールヌーヴォーの影響を受けたとされ、陰影深い発色と艶やかなモダンさが素晴らしい。
超絶技巧の京薩摩が次第に海外需要を失って、シンプルさが求められるようになってきた時代の流れもよくわかる内容となっています。
大和文華館のコレクションは近世あたりまでを守備範囲としていますから、続く時代の優品を接続した今回の企画は今までの同種展よりも幅が出ていると感じました。
今回の展示は日光によるダメージを受けない陶磁器ばかりです。
光に弱い古絵画が主体のときは大和文華館名物、吉田五十八による「竹の中庭」がカバーで隠されてしまいますが、本展では柔らかい光を館内の四方に届けています。
やはりここはこの中庭の竹が見えないと物足りません。
庭園を飾る梅の見頃はおそらく2月に入ってからですが、早咲きの枝が1月下旬現在、すでにちらほら見られます。