企画展「茶の湯の茶碗 ― その歴史と魅力 ― 」
■2023年9月16日~11月26日
■中之島香雪美術館
この秋、京阪神のミュージアム9館が連携し、「茶碗」をテーマとした企画展を開催しています。
京都国立博物館(特集展示「茶の湯の道具 茶碗」)のみ会期が終了(9月10日まで)してしまいましたが、中之島香雪美術館、野村美術館、樂美術館、北村美術館、泉屋博古館、湯木美術館、逸翁美術館、滴翠美術館では開催中、またはこれからのスタートが予定されています。
それぞれ、他館で鑑賞した展覧会のチケット半券などを見せると割引になりますから、この機会にグルグルと関西の実業家数奇者たちによる茶碗コレクションを観てまわるのも面白いかもしれません。
中之島香雪美術館では今回、約70点の作品が展示されていますが、その大半が当然に村山龍平(1850-1933)によって収集されたものです。
驚くのはその多様さです。
室町に重んじられた格調高い天目から桃山の多彩な器、そして江戸の華やかな近世茶碗まで、この国における「茶の湯」の歴史をそのままトレースできてしまう幅広さ。
なんと一人のコレクションで「茶碗史」がたどれてしまう展覧会です。
村山龍平はもともと「茶の湯が好きではなかった」らしいのですが、朝日新聞が軌道にのり実業界で名を成すにつれ、一気にこの世界にのめり込んでいったのでしょう。
村山龍平茶碗コレクションを代表する一つが「志野茶碗 銘 朝日影」です。
2018年、中之島香雪美術館がその開館を記念して開催した「珠玉の村山コレクション」展で、カタログNo.1を飾ったのもこの茶碗でした。
「朝日影」の銘は村山自身がつけたものです。
正面右に見られる模様が、彼が創業した朝日新聞社の社旗を思わせることに由来するそうです。
ただ、作品解説板にも書かれているように、これは「朝日」ではなく、魚のイメージが写されているとみた方が自然ではあります。
今回の企画では、この茶碗のすぐ近くに湯木美術館からゲスト出展されている志野茶碗の傑作「広沢」が展示されています(これはレンタル品なので写真撮影不可)。
その「広沢」ほどではないにせよ、「朝日影」も志野らしいニュアンス豊かな白さが見事な名碗であり、これを入手したときの村山龍平の昂った気持ちも想像に難くありません。
思い込みとはいえこの器に「朝日」のイメージを銘として残したかったのでしょう。
ある意味、蒐集家の情念が投影されたともいえる傑作です。
さて、「広沢」と共に、他館から借り受けた茶碗がもう一つ展示されています。
北村美術館が蔵する野々村仁清による「色絵鱗波文茶碗」(10月22日までの展示・これも写真撮影不可)です。
北村美術館を代表する名品の一つですが、今回の展示では独立ケースに収められていて、360度、まるまる鑑賞することができます。
たっぷりとこの器を堪能できる機会ではないでしょうか。
河原町今出川の本家ではこのような展示の仕方はなかなかされないと思います。
本作の特徴である規則性をもって配された鱗紋様が、正面の反対側では、より一層美しく浮かび上がってきます。
金森宗和&仁清の極めて洗練されたモダンなセンスをじっくり味わうことができました。
「鱗波紋茶碗」の横には、香雪美術館が有する仁清、「色絵忍草文茶碗」が展示されています(もう一つの仁清である「色絵蓬菖蒲文茶碗」は10月24日からの展示)。
こちらも緑釉のグラデーションが柔らかく植物紋様を囲む京焼らしい気品が素晴らしい優品と感じました。
渋さ一辺倒ではない、村山龍平のキレイ好みが伝わってきます。
樂家の仕事にも村山はしっかり目を配っていて、長次郎、常慶以下、いくつか特徴的な作品を収集しています。
中でも面白かったのは、九代、樂了入(1756-1834)の手による二つの茶碗、「赤楽鶴図茶碗」と「赤楽亀図茶碗」です。
コレクションの中では比較的新しい時代に属する作品で、楽茶碗といっても深い色味を発する釉薬の華麗さが江戸中期の趣を感じさせます。
不老長寿を祈念した吉祥の器ですが、絵柄を担当したの円山応挙(1733-1795)と伝わっているそうです。
複雑に入りくんだ色彩に浮かび上がる鶴や亀はどこか幻想的な雰囲気すら感じさせます。
なお、現在、樂美術館では「定本 樂歴代」展(9月2日〜12月24日・9館連携割引企画対象)が開催されています。
長次郎から当代である十六代吉左衛門までおそらく漏らさず作品が披露されているはずですから了入の作品も復習を兼ねてあらためて鑑賞してみたくなってきました。
この企画展は前述の通り、他館からの借受品である二つの茶碗は撮影禁止ですが、その他、香雪美術館自身の蔵品は全てOK(携帯・スマホのみ)です。
ただしシャッター音については出さないように注意書がありますから、撮影する場合、機種によっては無音化写真アプリなどの準備が必要かと思います。